ピクサー史上2番目に苦労したキャラとは?『ソウルフル・ワールド』の挑戦
ディズニー&ピクサーの最新作『ソウルフル・ワールド』は、魂<ソウル>の世界に迷い込んだ主人公の旅を通じて、人生の意味を問いかける人間ドラマ。本作を手掛けた『モンスターズ・インク』『インサイド・ヘッド』などの名匠ピート・ドクター監督が、共同監督のケンプ・パワーズ、プロデューサーのデイナ・マリーと共に、製作の裏側と本作に込めた思いを語った。
本作の主人公は、ニューヨークでジャズミュージシャンを夢見る音楽教師のジョー。ある日、憧れの場で演奏する機会を得たジョーだが、夢見ごごちで歩いていたところでマンホールに転落してしまう。彼の魂が迷い込んだのは、生まれる前にどんな人間になるかを決める「魂<ソウル>の世界」。そこで、生まれることを拒み続ける”ソウルの22番”と出会ったジョーは、現世に戻るため、彼女に人生のきらめきを見つけさせようと奮闘する。
本作についてドクター監督は「例えば、顔をなでるそよ風が気持ちいいとか、舞い散る落ち葉を見てたまらない気持ちになるような感覚。そうした、誰の人生にも起きる瞬間が、ソウルたちにはまだないんです。とても感覚的なことですが、人生においてそうした瞬間は欠かせません。人生の価値は人によって違いますが、誰だって、一歩外に出て木の匂いをかぐだけで世界の一つになることができる。この世界に存在するだけの価値があるんだということを伝えたいと思って作った映画です」と語る。
ピクサーならではの独創的で美しい風景が広がっているソウルの世界。そこには、無垢で純粋なソウルたちと共に、彼らを優しく見守り、監督する“カウンセラー”たちも存在している。2Dアニメのように線だけで構成されたカウンセラーと、まん丸で愛らしいソウルたちのコントラストは実にユニーク。ドクター監督は「2Dに見えるけど、カウンセラーたちも3Dで表現しています。線だけでできたキャラクターだから楽に動かせるかと思っていたら、ものすごく苦労しました」と振り返る。
デイナいわく、カウンセラーを描くのは、針金ハンガーで作った絵をスムーズに動かすようなもので、苦労が絶えなかったという。「最初は、みんなワクワクしながら動かしてくれるだろうなと思っていたら、『ファインディング・ドリー』の(タコの)ハンクに次いで、ピクサー史上2番目に動かすのが難しいキャラクターになってしまって……。技術チームもアニメーターもチャレンジが大好きだから、そこまで怒ってないと思いますけど(笑)」
そんなソウルの世界に並んで重要な舞台となるのが、ジョーの暮らすニューヨークの街並み。たくさんの人や車にあふれ、世界各国の言葉が飛び交う都会の喧騒は、ソウルの世界とは打って変わって、リアルで生活感にあふれている。共同監督のケンプは、その現実感に一役買っているのが大勢のモブキャラだと明かす。「背景に映るキャラクターは、かなりの種類を用意しました。ニューヨークほど人種的に多様な街はありませんから。時間をかけて、顔や体型、肌の色まで違う人々を作った。声優もかなり国際的なんです。これまでのピクサー作品でも、背景にここまで大人数がいたことはなかったんじゃないかな。でも、それこそがニューヨークなんです」
常にパーソナルな作品づくりを大切にしてきたピクサー。ジョーの生活にも、ケンプ個人の体験が反映されているという。「僕もニューヨーク在住の中年黒人男性ですから(笑)。僕が参加した時点で、ジャズを愛する音楽教師の中年男性が主人公というような大方の骨組みはできていました。そこに個人的な体験を肉付けしていったんです。ただ、それは映画の一部でしかありません。ピート自身や一緒に働いているクリエイティブチームそれぞれの経験が反映されているので、観客の皆さん全員に共感してもらえるキャラクターになっていると思います」(編集部・入倉功一)
映画『ソウルフル・ワールド』はディズニープラスで配信中