香里奈、嫌だった女優デビューから20年
ファッションモデルと並行して始めた女優業も20年の歳月が経過した香里奈（36）。1月29日公開の映画『おもいで写眞』では、深川麻衣演じる不器用な主人公・結子を優しく支える包容力のある女性・美咲を好演した。「若いころは結子のように『自分が自分が……』という気持ちが強かったですね」としみじみ語った香里奈が、自身の女優人生を振り返った。
香里奈演じる美咲は、挫折を味わい故郷に戻って来た結子に、押しつけがましくない適度な距離感を持ちつつ、そっと背中を押してくれるような包容力のある女性だ。「映像には映っていませんでしたが、美咲は結婚して子供もいる設定。年下への対応も、目上の人に対してもうまくこなせる温かい女性がにじみ出るように演じられたらいいなと思いました」と役へのアプローチ方法を語る。
数々の経験を積んできたことにより醸し出される包容力。香里奈も2001年に女優デビューして以来、20年という歳月を重ねてきた。美咲の持つ懐の深さはもちろん、とがっている結子の若さも理解できるようだ。「結子のように、自我を抑えられずイライラしてしまう気持ちが分かります」と笑顔を見せた香里奈。自身にも思い当たる節があるという。
「例えばメイクに関しても、10代や20代前半って、自分がどう見られるかという部分を強く意識してしまうので、こだわりがありました。いろいろな方にメイクをしてもらっていても、自分好みにしたくなるんですよね。写真を撮っていただいても、自分でチェックしないと気が済まない。どうしても狭い視野になっていましたね（笑）」。
しかし、年を重ねていくことで、他の人の意見に耳を傾けられるようになっていった。「もちろん自分を持つことも大切ですが、メイクにしても、自分と視点が違う人にやっていただくと、これまで気づかなかった魅力を引き出してもらえると分かったんです」。
芝居に関しても、大きな気づきがあったという。「以前は主演をやらせていただくことが多かったのですが、近年はヒロインを支える役や、個性的なキャラクターを演じるなど、役のふり幅も変化したことで、これまで見えなかった部分も見えてきました」と広い視野を持つことによって、ものづくりの楽しさも増してきた。
気がつけば20年という女優人生。しかし、モデル業をしているなか、初めてお芝居の話が来たときは「嫌です」と断ったという。「すごくありがたい話だったのですが、未知の世界だし、演技をする自分が気持ち悪いと思っていました」と当時を振り返る。
嫌々臨んだ現場。台本の読み方はもちろん、どう立ち振る舞っていいのかも分からない。最初のころはまったく馴染めなかった。それでも逃げ出さなかったのは、撮影が終わったあと、漠然とした達成感があったから。「なにも分からないし、なにを得たのかも実感がない。お芝居も全然下手くそだったのですが、『また経験したい』と思ったんです。いま考えるとプロフェッショナルな人たちが、一つのものを作るために試行錯誤していく過程にワクワクしたのかもしれません」。
さらにもう一つ、香里奈を女優業にかき立てたのが負けず嫌いな性格。「モデルをやりつつ女優業への挑戦だったので、周囲から『モデルのくせに』とか『演技は下手』といろいろ言われたんです。すごく悔しくて『絶対見返してやる！』という思いが湧いてきました。もちろんお芝居の仕方も分からなかったのですが、とりあえずやるしかないと、負の感情をパワーに変えて現場に行っていました」。
その後も、この仕事を辞めようと思ったことは「何度もありました」と語った香里奈。でも行動には移さなかった。「結構、現実的なタイプなんですよ」と笑うと、もし辞めてしまっても、自分には他にできることがないと自己分析する。「どんな仕事もお金を稼ぐことって大変じゃないですか。そう考えると、辛いことがあっても最終的には、お芝居の仕事をやらせてもらえるのって、ありがたいという気持ちにたどり着くんです」と笑顔を見せた。
夢を持って都会に出たものの、挫折し故郷に戻って来た結子。そんな彼女をさりげなく見守る幼なじみの一郎（高良健吾）や美咲。それぞれのキャラクターが熊澤尚人監督の繊細な演出で魅力的に描かれた本作。「経験を重ねても毎回反省ばかり」と苦笑いを浮かべていたが「だからこそ楽しいのかもしれません」と女優業の魅力を語っていた。（取材・文・撮影：磯部正和）