鈴鹿央士、広瀬すずら「先輩」の思いを胸に進む俳優の道
初出演映画となった『蜜蜂と遠雷』(2019)で、松岡茉優や松坂桃李らと共に強い存在感を発揮し、その年の映画賞で新人賞を総なめにした鈴鹿央士。映画公開から約1年4か月、主演として臨んだ『劇場版『ホリミヤ』』でスクリーンに戻ってきた鈴鹿は、どんな思いでこの期間を過ごしてきたのだろうか。
シリーズ累計600万部を突破した人気コミックを実写化した本作は、大人しい男子とクラスの人気者の女子がお互いの秘密を共有したことをきっかけに距離を縮めていく物語。鈴鹿ふんする宮村伊澄は、学校では地味で目立たないメガネ男子だが、学校外では耳や口に9つものピアスを開け、身体には大きな刺青がある超個性的なキャラクターだ。台本を読んだとき「ものすごく温かさを感じた」と瞬時に作品の本質をつかむと「宮村くんを演じるのが楽しみでもあり、どうやって表現しようか」と悩みも感じた。
キャラクターの芯をつかみつつ、タトゥー&ピアスと地味男子というビジュアル的な二面性をどのように表現するか。ある程度イメージしてクランクインを迎えたが、基本は撮影現場に入って、宮村と秘密を共有する堀京子役の久保田紗友や松本花奈監督らとディスカッションしながら、臨機応変に対応して役を立体化していった。
特に助けとなったのが久保田だ。「同い年なのですが、僕よりもずっとキャリアがあるのですごく安心感がありました。熱量もすごく、現場では悟られないように振る舞っていましたが、かなり引っ張ってもらっていたと思います」と照れ笑い。
鈴鹿の俳優デビューは非常にドラマチックだ。広瀬すずがヒロインとして出演した映画『先生! 、、、好きになってもいいですか?』にエキストラとして参加していたところ、その撮影現場で広瀬が鈴鹿の存在感の強さに惹かれ、マネージャーに進言したことからスカウトされた。
「僕は岡山市に住んでいたのですが、この地域で『8年越しの花嫁 奇跡の実話』や『君と100回目の恋』など映画の撮影が続いていて、学校の友達とかがみんな見に行っていたんです。でもなかなか僕は行けなくて、たまたま僕が通っている学校で『先生! 、、、好きになってもいいですか?』の撮影があったので観に行ったら、こういうことなったんです」
高校卒業を機に上京し、芸能活動を開始した鈴鹿。事務所に入り3か月後に受けたオーディションが『蜜蜂と遠雷』だった。当時は「俳優とは何か?」すらわからず、ただ無我夢中で撮影に臨む日々。ようやく俳優という仕事の実感が湧いてきたのは、映画が公開された2019年10月4日からだった。
「レッスンなどで動画を回して自分の芝居を観たりするのですが、そのときは恥ずかしくてまともに観られなかったんです。本当に嫌だなーって。でも完成した『蜜蜂と遠雷』を観たときは、恥ずかしさが消えて物語に集中できたんです。もちろんまだお芝居の良し悪しなんてわからないのですが、現場で作品の色にしっかり染まれるようになろうと頑張っています」
『ホリミヤ』でもその思いは大切にした。「作品を重ねて、少しずついろいろなことを考えてしまいがちなんです」と経験を積んだからこそ生じる迷いを課題に挙げるが、それでも、毎カットごとに生まれる感情に寄り添い、純度高く表現することを意識。しっかりと温度ある宮村くんを表現した。
正面から演じることに向き合い、地に足をつけて進む俳優道。しかしまだまだ不安も大きいそうだ。「これまで2~3回ぐらい、事務所の社長さんに『この先どうなるんですかね』と聞いたことがあるんです」と恥ずかしそうに打ち明ける。その際、社長からは「それはわからないな」と言われたが、同時に「まずは目の前にある作品に真摯に向き合って集中し、積み重ねていくことによって道は開ける」とアドバイスされた。
不安がある一方で「消えちゃいけない」という強い思いもある。「最初に見つけてくれた広瀬すずさんはもちろんですが、『蜜蜂と遠雷』で僕を見つけてくれた石川慶監督や石黒裕亮プロデューサー、『おっさんずラブ』の瑠東東一郎監督、『カレーの唄。』の瀬田なつき監督、俳優の先輩だと森崎ウィンくんや満島真之介さん、綾野剛さん……大きな出会いがたくさんありました。そんな方々に対して、やっぱり『辞めちゃいけないし、消えられない』と思います」
また、作品を観てくれた人の思いも鈴鹿のエネルギーになる。「『蜜蜂と遠雷』を観てピアノを始めましたなんて感想をいただくと、人の人生に関わってしまったんだなと感じるんです」。観てくれる人が一人でもいる限り、ずっと俳優を続けたい。そんな思いが強くなった1年4か月だったようだ。(取材・文・撮影:磯部正和)
『劇場版『ホリミヤ』』は上映中
ドラマ「ホリミヤ」(全7話)はMBS/TBSドラマイズム枠にて2月16日放送スタート(MBS:毎週火曜深夜0時59分~、TBS:火曜深夜1時28分~)