尾野真千子、4年ぶり映画主演 石井裕也監督とタッグで母親役「力の限り戦った」
女優の尾野真千子が、『舟を編む』(2013)『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017)などで知られる石井裕也監督の新作『茜色に焼かれる』で約4年ぶりに映画主演を務めることが26日、明らかになった。石井監督が愛と希望をテーマに母と息子を描いたオリジナル脚本のストーリーで、尾野は逆風を受けながらも前向きに歩もうとする母を演じる。13歳の息子に15歳の新人・和田庵が抜擢。共演に片山友希、オダギリジョー、永瀬正敏らが名を連ねる。5月21日、全国公開予定。
主演の尾野は、先ごろ終了した大河ドラマ「麒麟がくる」の伊呂波太夫役も記憶に新しく、現在2本の映画『ヤクザと家族 The Family』『心の傷を癒すということ《劇場版》』が公開中。映画主演を務めるのは、2017年公開の『いつまた、君と ~何日君再来(ホーリージュンザイライ)~』以来となる。本作で演じるのは、哀しみと怒りを心に秘めながらも息子への愛を胸に気丈に振る舞う母・良子。尾野は「私は、この度、どうにもやりにくいこの世の中で、映画の登場人物達が戦うように私ももがき、あがき、力の限り戦ってみました」とコメントしている。
良子の息子・純平を演じるのは、映画『ミックス。』(2017)で俳優デビューし、ドラマ「隣の家族は青く見える」(2018)などに出演したのちカナダ留学を経験した若手注目株・和田庵。純平が憧れる良子の同僚ケイに『あの頃。』(2021)の新進女優・片山友希、交通事故で命を落とす良子の夫・陽一にオダギリジョー、良子とケイを見守る風俗店の店長に永瀬正敏がふんする。
本作は、石井監督がコロナ禍の2020年夏、どうしても撮りたい、見たいとして母親についての物語を発案。「人が存在することの最大にして直接の根拠である『母』が、とてつもなくギラギラ輝いている姿を見たいと思いました。我が子への溢れんばかりの愛を抱えて、圧倒的に力強く笑う母の姿。それは今ここに自分が存在していることを肯定し、勇気づけてくれるのではないかと思いました」とその意図を語っている。
キャスト、監督のコメント全文は下記の通り。(編集部・石井百合子)
映画『茜色に焼かれる』は5月21日、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
尾野真千子(田中良子役)
拝啓皆様いかがお過ごしですか。私は、この度、どうにもやりにくいこの世の中で、映画の登場人物達が戦うように私ももがき、あがき、力の限り戦ってみました。どうぞごらんください。
和田庵(田中純平役)
初めて台本を読んだ時、役の重要さにプレッシャーと気合い、そして感謝という色んな感情が同時に溢れたのを覚えています。主演の尾野さんは、とてもやさしく面白い人で、殆どの時間を一緒にいて、本当の親子のように接していたのでクランクアップの時はとても寂しかったです。石井監督は普段はとても気さくで話しやすいお兄さんという感じですが、いざ撮影が始まると怖いくらい集中して別人のようになります。そして監督の良い映画を作りたいという強い想いが現場全体に伝わり、僕も拙いながら「このチームの一員として良い作品を作りたい」と意欲が湧きました。今回、この素晴らしい作品に役者として参加出来たことを僕は誇りに思います。母と子を取り巻く矛盾や理不尽さの中でコントロール出来ない感情に振り回されながら、それでも幸せになりたいと願う親子を描いた作品です。純平を演じて僕自身も精神的に成長出来たと思います。その親子の姿は皆さんにとって、きっと忘れられない作品になると信じています。
片山友希(ケイ役)
完成した映画を観ている最中、これで良くなかったら私はやめた方がいいんだろう。縁がなかったんだろう。とふと、思いました。が、そんな事どうでも良くなりました!映画ってかっこいい!映画を作ってる人達ってかっこいい!まだまだ私の熱は冷めません!ここには書ききれない毎日がありました。時間が経って、今になって監督は私を信じてくれたんだと気づき涙が出ました。
オダギリジョー(田中陽一役)
一生懸命に生きることって、何よりも大事だと思う。そして時には、闘うことも必要だ。自分の為にも。大切な人の為にも。
永瀬正敏(中村役)
石井裕也監督の世界に触れさせていただきたい、、、その想いだけでした。素晴らしい体験、感謝しています。
石井裕也監督
とても生きづらさを感じています。率直に言ってとても苦しいです。悩んでいるし、迷っています。明らかに世界全体がボロボロになっているのに、そうではないフリをしていることに疲れ果てています。コロナ禍の2020年夏、しばらく映画はいいやと思っていた矢先、突然どうしても撮りたい映画を思いついてしまいました。今、僕がどうしても見たいのは母親についての物語です。人が存在することの最大にして直接の根拠である「母」が、とてつもなくギラギラ輝いている姿を見たいと思いました。我が子への溢れんばかりの愛を抱えて、圧倒的に力強く笑う母の姿。それは今ここに自分が存在していることを肯定し、勇気づけてくれるのではないかと思いました。多くの人が虚しさと苦しさを抱えている今、きれいごとの愛は何の癒しにもならないと思います。この映画の主人公も、僕たちと同じように傷ついています。そして、理不尽なまでにあらゆるものを奪われていきます。大切な人を失い、お金はもちろん、果ては尊厳までもが奪われていきます。それでもこの主人公が最後の最後まで絶対に手放さないものを描きたいと思いました。それはきっと、この時代の希望と呼べるものだと思います。これまでは恥ずかしくて避けてきましたが、今回は堂々と愛と希望をテーマにして映画を作りました。と、まあこうやってつらつら書きましたが、尾野真千子さんがその身体と存在の全てを賭して見事に「愛と希望」を体現しています。尾野さんの迫力とエネルギーに心地よく圧倒される映画になっていると思います。尾野さんの芝居に対する真摯な姿勢には心から敬服していますし、共に映画を作れて、とても幸せに思っております。