中国の言いなりになったハリウッド…媚びても次々上映禁止に
ハリウッドが、またもや中国に頭を悩ませている。来月のアカデミー賞授賞式の中継番組を放映しないよう、中国政府がメディア各社に通達を出したのだ。(Yuki Saruwatari/猿渡由紀)
【画像】批判殺到で…中国で上映中止となった実写版『モンスターハンター』
理由は、今月15日に発表されたノミネーション作品の中に、短編ドキュメンタリー映画『ドゥ・ノット・スプリット(原題) / Do Not Split』が入ったこと。上映時間35分の同作は、民主主義を守るために奮闘する香港の人たちを描くものだ。これに怒った中国政府は、アカデミー賞の重要性を強調しないこと、また受賞結果は無難な部門に限って報道することをメディアに要請したという。
中国による検閲は、もちろん今に始まったことではない。バイオレンス、セックス、同性愛などが出てくる作品は、昔からまず間違いなく拒否されてきた。中国でも上映してもらいたいなら、それらのシーンをカットして“中国仕様”にするしかない。そうして中国市場を見据えたハリウッドの自主検閲も生まれ、近年、大きな問題になってきている。あるいは、最初から中国は諦めるか。たとえば、全世界で大ヒットした『ジョーカー』は、中国はないものと覚悟して製作されている。あの映画からバイオレンスをなくしたらまるで違う映画になってしまうだろうから、その判断は正しい。
だが、中国での公開を想定して制作したのにもかかわらず、予想外の理由で禁止されることもある。最近では『モンスターハンター』がそうだ。問題となったのは、アジア系アメリカ人のラッパー、オウヤン・ジンが、「俺の膝を見ろ。どんな膝(ニーズ)だ? チャイニーズだ」というシーン。作り手に差別の意図は全くなかったのだが、映画を見た一般観客は、アジア人の子供を馬鹿にする遊び歌を連想し、人種差別だと捉えたのである。この騒ぎが出ると、劇場は次々に上映を取りやめ、初日、中国全土の四分の一ほどのスクリーンで上映されていた同作は、翌日には0.7%しか占めない状況になった。制作側はすぐに謝罪し、該当シーンを全世界でカットしたのだが、中国ではそのバージョンも許可されず、上映は打ち切りの状態のままだ。
クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)も、同じような経験をした。同作は中国の会社が25%の資金を提供しているにもかかわらず、公開1週間前になって上映禁止が言い渡されたのだ。中国政府は理由を発表していないが、劇中でブラッド・ピットがブルース・リーをやっつけるシーンを「侮辱だ」と公に批判してきたシャノン・リー(ブルースの娘)が直接懇願したことが大きいのではないかと推測されている。
2018年には、ディズニーの『プーと大人になった僕』が上映禁止の憂き目にあった。これまた説明はないものの、その前年、ソーシャルメディアにクマのプーさんを使った習近平批判の映像が出回ったことが原因だとみられている。2016年には、やはり一見何の害もなさそうなアクションコメディー『ゴーストバスターズ』が上映を拒否された。いくら明るく描かれていても、ゴーストという要素が問題視されたのではないかというのが、ハリウッド関係者の推測だ。
このような事態は、スタジオ側には予測しようがない。そのたびにスタジオやフィルムメーカーは振り回され、余計な仕事が増えることになる。それでも、中国を完全に切り離すのは難しい。人口が多い上、成長市場である中国は、稼ぐ時はとんでもなく稼ぐのだ。『ワイルド・スピード』シリーズの最近作の売り上げは北米より多かったし、『アベンジャーズ/エンドゲーム』は6億ドル(約660億円)以上も売り上げた。頭を悩ませられても、それでもハリウッドは中国との関係を続けていく。