笑福亭鶴瓶、17年密着ドキュメンタリー『バケモン』で映画館にエール 入場料は全て劇場へ
落語家・笑福亭鶴瓶に約17年間密着したドキュメンタリー映画『バケモン』が完成した。コロナ禍における、鶴瓶からの“映画館へのエール”を込めて、上映の際にかかる映画上映料はとらずに、映画館で売り上げた興行収入は全て映画館に渡すという、画期的な上映形態がとられる。
本作は「24時間テレビ 愛は地球を救う」をはじめ「スーパーテレビ情報最前線」「追跡」など数多くの番組を手掛けたテレビマン・山根真吾が、2004年からおよそ17年間にわたって、鶴瓶に密着した1,600時間にも及ぶ映像をまとめたドキュメンタリー映画。ナレーションは、かつて映画『ディア・ドクター』でも鶴瓶と共演した香川照之、音楽は数々の名作ドラマ・映画を手掛けた服部隆之が手掛ける。
かつてタレントとしての活動の比重が大きかった鶴瓶が、50歳の時に「人生の決着点を見つけたい」と本格的に落語に挑み始めた演目のひとつが、上方落語の傑作「らくだ」だった。師匠である六代目笑福亭松鶴の十八番としても知られるこの長講は、師匠の芸に近づこうと、鶴瓶が取り組み続けてきた大切な演目となる。映画は、山根監督が密着した17年の間で起こったさまざまな出来事に呼応するように、時代ごとに変化していく鶴瓶の「らくだ」を通じて、今年12月に古希を迎える落語家・笑福亭鶴瓶の過去、現在、未来をすくい取っていく。
テレビ、映画、CMなど、映像の世界でも八面六臂(ろっぴ)の活躍を続ける鶴瓶だが、これまで、高座の全容を収めた映像ソフトを発売することはなかった。山根監督が17年かけて収めた1,600時間に及ぶフッテージも、鶴瓶から「俺が死ぬまで世に出したらあかん」と念押しされていたといい、発表するあてもなく、自主的にコツコツと撮りためてきたものだった。そのうわさはいつしかテレビ業界に広がり、いくつもの放送局から、その素材で番組を作ってくれないかとのオファーもあったが、首を縦に振ることはなかったという。
そんな秘蔵映像を世に出そうと思ったきっかけがコロナ禍だった。2020年、テレビ番組の収録が軒並み中止となるなか、鶴瓶のマネジメントを手掛ける、株式会社デンナーシステムズの千佐隆智社長による「鶴瓶という芸人で”なんか できへんか”」という思いつきから、膨大なフッテージをドキュメンタリー映画としてまとめるプロジェクトがスタート。制作費と経費はデンナーシステムズが負担し、配給も行う。鶴瓶主演の映画『ディア・ドクター』(2009)をエンジンフイルムと共同配給したアスミック・エースも、配給協力として本作をサポートすることになった。配信・ソフト化の予定はなく、映画館でしか観ることができない作品となる。
さらに特筆すべき点は、上映の際にかかる映画上映料はとらずに、売り上げた興行収入はすべて映画館のものになるということ。いつでも上映可能なDCPデータ(上映データ)を映画館に寄贈し、時期を問わず、映画館が上映したいと思った時に、いつでも映画を上映できるようになるという。
西川美和監督の『ディア・ドクター』は、その年の映画賞において、数多くの賞を鶴瓶にもたらし、俳優・笑福亭鶴瓶のターニングポイントというべき作品となった。かつて『ディア・ドクター』を上映していた映画館が今、厳しい状況に立たされている。千佐社長は「『ディア・ドクター』の上映時は、ミニシアターのスタッフの方たちが映画のために一生懸命やってくれたおかげで映画が広がって、評価を受けたという実感がありました。だからこそ今、われわれでお返しできることがあるならば何かできないかと考えた」と語る。
現時点における上映館は『ディア・ドクター』を上映した映画館が中心となるという。コロナ禍で苦境を強いられている映画館に向けた、鶴瓶たちからの“型破りなエール”に注目したい。(取材・文:壬生智裕)
映画『バケモン』は7月2日(金)より東京・ヒューマントラストシネマ渋谷、大阪・シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開予定