『バケモノの子』なぜ渋谷が舞台?
今夜(7月9日)、日本テレビ系「金曜ロードショー」(夜9時~11時19分)にて本編ノーカットで放送される細田守監督のアニメーション映画『バケモノの子』。本作の舞台は東京・渋谷と、バケモノたちが住む渋天街。渋天街に迷い込んでしまった少年が暴れん坊のバケモノの弟子となり、親子のような絆を育んでいくストーリーだが、そもそも、なぜ渋谷が舞台だったのか? 改めて振り返ってみた。
『バケモノの子』は2015年7月に公開され、興行収入58.5億円を記録(数字は日本映画製作者連盟調べ)。細田監督作品最大のヒットとなった。耳慣れない渋天街(じゅうてんがい)とは、渋谷に存在するバケモノが暮らす異世界のこと。物語は、育ての親(麻生久美子)を亡くし家を飛び出した孤独な少年(宮崎あおい)が、渋谷を散歩していた熊徹(役所広司)というバケモノと出会うところから始まる。彼を追って渋天街に足を踏み入れた少年は、熊徹に「九太」と名付けられ共に暮らし、彼の弟子として修行を積んでいく。8年後、青年に成長した九太(染谷将太)は久しぶりに訪れた渋谷で高校生の楓(広瀬すず)と出会い渋谷に通ううちに大学進学について考えるようになり、実の父(長塚圭史)と再会する……。
細田監督は、舞台を渋谷に選んだことについて「いろんな街の中で、渋谷が一番“もう一つの街”をはらんでいる気がするんです。道が人工的じゃないし、80年代の開発の際には地中海的でおしゃれな雰囲気もあった」と、2015年10月27日に行われた第28回東京国際映画祭「Japan Now」部門の特集上映『バケモノの子』のQ&Aセッションで語っていた。
また、『バケモノの子』公式サイトのインタビューでは、『サマーウォーズ』(2009)、『おおかみこどもの雨と雪』(2012)と方向性を変え、都会を選んだことを説明している。「この映画は渋谷区から一歩も出ません。それにこだわっていると難しい問題がいっぱい出てくるのですが。今まで『サマーウォーズ』では長野県上田市、『おおかみこどもの雨と雪』では私の地元の富山県を舞台にして、田舎の風景の中で物語を作ってきました。そこから一転方向性を変え、都市のど真ん中で冒険をしてみようと。ふつう冒険をするとなると、どこか外国へ行くとか、今住んでいるところと違うところへ出かけていくことを想像しますよね。けれど実は、僕らが慣れ親しんだ街の中にこそ、ワクワクするものが潜んでいるのではないかと思うのです」
さらに、渋谷という場所が持つ魅力について「非常にたくさんの人が集う場所であって、常に変化している魅力的な場所でもあります。そんな場所を映画の中で縦横無尽に使ってみたいなと思いました。渋谷というのはポスターにもある駅前だけではなく、幡ヶ谷とか、代々木公園とかも渋谷区ですし(笑)、そういったところで色々な出来事が常に発生し続けていきます。都市空間としての渋谷を舞台にすることは挑戦でもありましたが、映画を作っていく中で、実は非常に冒険に適した場所だったのだなと実感しているところです」と語っている。
本作は人間が暮らす渋谷と、バケモノが暮らす渋天街を行き来するストーリーだが、新作の『竜とそばかすの姫』(7月16日公開)の舞台は、自然豊かな高知の田舎町と、50億人以上が集う巨大インターネット仮想世界<U>。母の死をきっかけに歌うことができなくなっていた17歳の女子高生すずが、<U>に歌姫「ベル」というアバターとして参加し、その歌声でたちまち世界に注目される存在に。<U>の世界で恐れられる竜の姿をした謎の存在と出会う。なお、『バケモノの子』で熊徹と九太を担当した役所広司、染谷将太は、『竜とそばかすの姫』にも参加。役所は主人公すず/ベル(中村佳穂)の父を、染谷はクラスメイトを演じる。(編集部・石井百合子)