欠如しているのは「才能ある人材」ではなく「機会」!『イン・ザ・ハイツ』監督がマイノリティの新スターを発掘する理由
ミュージカル映画『イン・ザ・ハイツ』のジョン・M・チュウ監督がインタビューに応じ、ビッグネームの俳優を起用するのではなく、マイノリティのコミュニティから新たなスターを発掘することの重要性を語った。
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『イン・ザ・ハイツ』は、「ハミルトン」でおなじみのリン=マヌエル・ミランダが原案・作詞作曲・主演を務めてその才能を世に知らしめた名作ミュージカルの映画化作品。ラテン系の移民が多く暮らす地域ワシントンハイツを舞台に、彼らが夢を追い、挫折を経験し、それでもまた立ち上がる姿が、ラップ、サルサ、ヒップホップなどノリノリの楽曲に乗せて高揚感いっぱいに描かれる。
コンスタンス・ウー、ヘンリー・ゴールディング、オークワフィナらアジア系キャストを『クレイジー・リッチ!』で一挙にブレイクさせたチュウ監督は、本作においてもメインキャストにアンソニー・ラモス(ウスナビ役)、レスリー・グレイス(ニーナ役)、メリッサ・バレラ(ヴァネッサ役)らラテン系のフレッシュな面々をあえて起用。彼らは今後も話題作が続くなど、本作を経て大きな飛躍を遂げている。
チュウ監督はキャスティングに関して、「闘いもちょっとあったけれど(笑)、幸いしたのは、僕たちがキャスト全体を発掘した『クレイジー・リッチ!』が公開されたこと」と前作が批評的にも興行的にも大成功を収めたことが突破口になったと明かす。「本作が、同様のことをまたやれる機会になるということはわかっていた。今度はラテンコミュニティでね。もう一つ有利だったのが、僕たちにはこの街ですごく力のあるリン=マヌエル・ミランダがいたこと(笑)。彼はそうしたことを要求することができたんだ」
マイノリティのコミュニティから新たな才能を起用することは「重要なだけでなく、必要なこと」とチュウ監督は力を込める。「なぜなら、そもそも才能のある人たちがそこに欠如しているのではなく、そうした才能のある人たちを引き立てる機会が欠如しているからだ。僕たちはそのことを知っていたから、この映画において必要な歌やダンスといったスキルを持った最もポテンシャルのある人たちをつぶさに見ていったよ」
チュウ監督はオルガ・メレディスを“街のみんなの育ての親”アブエラ役に、ジミー・スミッツをニーナの父役にキャスティングし、ラテン系のベテラン勢にも新たな光を当てている。「オルガはオリジナルのブロードウェイ版でもアブエラを演じていて、生涯を通してこの役のためにトレーニングしてきたと言っても過言ではない。そんな彼女をこの映画に出すことができてとても誇りに思っているよ。ジミーはこれまでも活躍してきた人だけど、彼の温かく美しい部分を見せる、こういう役は今までなかったと思う」
撮影を通して最も思い出深い出来事は、ラテン系であることへの誇りを人々が歌う「Carnaval Del Barrio」のシーンをワシントンハイツで撮影した時のことだという。「シーンが終わって僕が『カット』と言っても、誰もダンスをやめなかった(笑)。全員が踊り続けていた。演技ではなく、彼らは自分たちの旗を本当に誇り高く振っていた。リンは非常階段にいたんだけど、みんなが彼を見上げて『リン! リン! リン!』と叫び始めると泣いてしまったよ。リンは彼のための役がなかった時、自分のために役を書いた。彼のコミュニティのための役がなければ、彼はそれを自分で書いた。オリジナルミュージカル版の『イン・ザ・ハイツ』はそういう作品で、初演からほとんど20年後、それがついに映画になったんだ。ラテン系のダンサーたち、俳優たちがそこにいるのは、彼がそれを書く勇気を持っていたからだ。あの瞬間のことは、一生忘れないと思う」
「僕の映画監督としての使命は、その時に語るべきだと感じた物語を語ること。だから長期的な計画は持っていないんだ(笑)。ただ、ストーリーテラーとして僕たちが手にしている力というのは理解している。だから僕は(次のプロジェクトに)何を選んだとしても、いつでも光を示したい。示されるべきコミュニティを示し、人々に他者に対する関心を持ってもらえるようにしたい。だってそれが、僕にとっての映画の力だからね」。チュウ監督の挑戦は、まだ始まったばかりだ。(編集部・市川遥)
映画『イン・ザ・ハイツ』は7月30日より全国公開