『ミラベルと魔法だらけの家』感動のスペイン語曲はこうして生まれた
ディズニー・ミュージカル映画『ミラベルと魔法だらけの家』の監督コンビ、バイロン・ハワードとジャレド・ブッシュらがインタビューに応じ、ミュージカル界の寵児リン=マヌエル・ミランダとの共同作業など制作秘話を明かした。
企画がスタートしたのは5年前。『ズートピア』(2016)を共に手掛けたバイロンとジャレドは「次は一緒にミュージカルを作りたい」という思いを強くし、『モアナと伝説の海』(2016)にも参加したリンを引き入れて『ミラベル』チームが出来上がった。曲作りは脚本執筆と同時進行で進むなどリンとのコラボレーションは密接なもので、彼の曲がキャラクターたちとその関係を定義し、脚本全体をも形作るものになったのだという。
「バイロンは『塔の上のラプンツェル』(2010)でディズニー・アニメーションにおけるミュージカルを復活させ、僕はミュージカル映画『モアナ』に脚本家として参加していて、それはすごく楽しい経験だったけれど、今回の作品では違うことをやりたかった。大家族で、12人の主要キャラクターがいるという今までにないチャレンジをね。彼ら一人一人に声を持ってほしくて、全員に歌う機会を与えたかった。観客が彼らを本当の意味で理解できるように。だから幅広い、タペストリーのような多様な音楽が必要だったんだ」(ジャレド)
「コロンビアにインスパイアされた音楽はとてもユニークで、リンの曲は一つ一つが全く違っていた。例えばオープニングの『ふしぎなマドリガル家』はアップテンポで、ミラベルが歌う『奇跡を夢みて』はバンブーコ(コロンビアの山岳地帯の音楽)、次姉ルイーサの曲『増していくプレッシャー』はとても現代的。レゲトンで、シンセサイザーがたくさん使われていて、ダンスソングとしてラジオから流れて来るような感じだ。だからビジュアル的にも、それぞれの曲がちゃんとそのキャラクターを反映したものにしたかった。リンの歌詞はずっと遠くまで旅し、アニメーションがそれを支える。さまざまなアニメーション表現に取り組むのは、すごく楽しいプロセスだったよ」(バイロン)
両監督の言葉通り、本作には実写版『アラジン』(2019)の振付師ジャマール・シムズらが参加し、「ディズニー・アニメーションが今までやったことのないようなレベル(バイロン)」で振り付けられたミュージカルナンバーから、「2匹のオルギータス」のようにしっとりと魅せる曲までさまざま。「2匹のオルギータス」は歌詞がスペイン語であることも特徴だが、これは初期から決めていたことだったのだという。
「映画で“その瞬間”にたどり着いた時、その曲はずっと昔からそこに存在しているような感じにしたかった。リンは、それはフォークソングだと考えた。100年の歴史があるからね。キャラクターの歴史を考えてみても、彼らは若い時はスペイン語を話していたから、歌詞をスペイン語にする方がしっくりくる。もしあなたがスペイン語を話せるなら、歌詞に込められた意味がわかるわけだから素晴らしいけど、たとえスペイン語が理解できなくとも、曲自体がとても美しいから、全ての感情を伝えてくれるんだ。僕たちはディズニー・アニメーションでそれ(スペイン語楽曲)を初めてやったことに興奮しているけど、奇妙なことに、映画を観た人たちに話を聞いたら、そもそもあの曲がスペイン語だったことに気付かなかった人たちも多くて。感情的にその瞬間にどっぷり浸っていたから気付かなかったそうなんだよ」(ジャレド)
映画の舞台がほとんど“一つの家の中のみ”というのも大きな挑戦だったが、音楽の力がそれを可能にしてくれた。ジャレドは「通常のディズニー映画は旅に出るものだけど、今回、僕たちは家の中で、彼らの人生がどんなものかということを描きたかった。音楽は家を、世界を超えてイマジネーションを広げてくれるから、僕たちは別の冒険に繰り出すことができた。挑戦ではあったけれど、それこそこの映画で最もスペクタクルなことだった。アートデザインチームはすごい仕事をしたよ。僕たちが長姉イサベラの“花の部屋”を見た時、あれは最後の段階で出来上がったシーンなんだけど、何千という花が動いていて、育っていて、変化していて、本当にロックコンサートみたいな感覚がした。大きな挑戦だったけど、映像的にスペクタクルなものになったと思う」と音楽とアニメーション表現の融合に自信をのぞかせていた。(編集部・市川遥)
映画『ミラベルと魔法だらけの家』は公開中