猫沢はドカジャンをアレンジ!『土竜の唄』衣装の裏側
現在公開中の映画『土竜の唄 FINAL』をはじめ、高橋のぼるの人気漫画を生田斗真主演で実写映画化したアクションコメディーシリーズの見どころの一つが衣装。『シン・ゴジラ』(2016)のスタイリストを務め、『土竜の唄』シリーズでは全作でキャラクタースーパーバイザーとして名を連ね、衣装を手掛けてきた前田勇弥がその裏側を語った。
本作は、累計発行部数950万部を突破する高橋のぼるの人気漫画を『悪の教典』『無限の住人』などの三池崇史監督と、宮藤官九郎脚本のタッグにより映画化したシリーズの完結編。ちょっぴりスケベだが正義感の強い警察官・菊川玲二(生田斗真)が潜入捜査官(通称:モグラ)となり、極悪組織・数寄矢会に潜り込んでボスの轟周宝(とどろき・しゅうほう/岩城滉一)の逮捕に奔走。完結編では、取引額6,000億円に及ぶ麻薬密輸を阻止という最終ミッションに挑む。
最も重要なのは生地
前2作『土竜の唄 潜入捜査官 REIJI』(2014)、『土竜の唄 香港狂騒曲』(2016)を含め、とりわけ目を引くのが主人公・玲二、そして玲二と兄弟分の契りを交わした数寄矢会・日浦組のパピヨンこと日浦匡也(堤真一)のド派手な衣装。玲二はバイソン、ヒョウ、ゼブラなどのアニマル柄、パピヨンは蝶をモチーフにしたもので、色味やデザインはもちろん生地にも細かいこだわりがあった。
「衣装はまず生地探しから始めます。市販の生地のほか、自分が日頃お世話になっているお店などに、特にイメージも何も伝えず『何か面白い生地ない?』と相談しています。今作では使っていませんが、海外から取り寄せたりもしていました。毎回、結構ギリギリまで探しています」
デザインは基本的に原作のイメージを踏襲しつつ、三池監督の意見を仰ぎながら実写に落とし込んでいるという。前田と三池監督は、『悪の教典』(2012)から9年に及ぶ付き合いになり、『無限の住人』(2017)、『初恋』(2019)、今年8月に公開された『妖怪大戦争 ガーディアンズ』に至るまで、多くの作品で組んでいる。
「基本的には原作ありきで考えてはいます。あまり縛られないように表紙を並べてパッと見の色味を見て、世界観をつかむ。基本、派手なジャケットやセットアップ、ブルゾンなど。モチーフも蛇、龍、鳥とさまざまで、いい意味でパターンがないのである意味、何でもアリ。三池さんからいつも言われるのは『かっこよく』。加えて『着たい』と思うようなとか、現実に落とし込むにはどうすればいいのかというのは考えている気がします」
玲二&パピヨンはシリーズごとにグレードアップ
なお、3作の差別化についてはどう考えていたのか。「特別に衣装の裏側にストーリーがあるわけではないのですが、一応三池監督からは『シリーズが進むにつれてグレードアップしている感じで』とは言われていて」。玲二は、第2作ではパピヨンが立ち上げた日浦組の若頭に出世。パピヨンは数寄屋会の阿湖義組若頭から日浦組の組長に上りつめた。
「2作目では玲二のスーツに鳳凰の刺繍を入れたことでグレードアップ感を出しました。ただ、3まで作られるとは思っていなかったので、どうすればいいんだろうと。ライトを入れて光らせなきゃいけないのか、とまで考えたんですけど、そんなことしたら動けないだろうなと(笑)。そんな時に虎の刺繍の入った生地を発見したのでこれでいこうと。パピヨンは原作でも蝶のモチーフが使われているので、基本は蝶。蝶を目立たせるための色味にしていて、黒、白、シルバーとかちょっと渋い感じになっています。蝶のモチーフは刺繍、ワッペンなどいろいろで、ワッペンも既製品のほか作ったものもあります」
そのパピヨンだが、1作目のクライマックスでは珍しく無地の白スーツで登場。しかし、そこには仕掛けがあり、背中に蝶の映像が映し出されるというサプライズがあった。「あれは監督のアイデアなんです。確か羽根の生地だったと思うんですけど、『この生地良くないですか?』と監督と話していて、蝶をどうしようかなと思っていたら監督が『(パピヨンの)復活を意味するシーンだし、映像で入れようか』と。さすがですよね」
落ちぶれた猫沢の衣装もユニーク!
玲二とパピヨンがグレードアップする一方で、第1作以来のカムバックとなる猫沢(岡村隆史)は落ちぶれたため、衣装も大きく変わっている。第1作では玲二ら数寄屋会と敵対する蜂ノ巣会の下部組織、血引一家の若頭補佐だったが、3作で玲二と再会したころにはかなり生活がひっ迫した様子だ。とはいえ強烈な個性は失われておらず、とりわけ羽根のモチーフがついたスニーカーはインパクト大だ。
「前作ではストライプのスーツや毛皮でした。猫沢にはかなり三池監督の意見を取り入れさせていただいていて、今回は落ちぶれてはいるけど昔の余韻は残そうと。ドカジャン(作業着)に、たまたま見つけたカラフルなファーを取り外し可能な襟としてつけました。ズボンに貼っているのは猫のワッペン。ドカジャンに蜂ノ巣会のバッジがたくさんついているのは三池監督のアイデアです。指なしの手袋にしたのは、(ダイヤモンドの)爪に目がいくようにする狙いもあります。スニーカーは監督が『猫沢の靴は面白いスニーカーでもいいかもね』とおっしゃっていたので、インパクトのあるものにしました。猫沢は癖のあるキャラクターなので、いろんなところに癖をつけたいなあと考えました」
ちなみに鈴木亮平演じる新キャラで、轟周宝の長男・轟烈雄(とどろき・レオ)の衣装は三池監督の「ロッド・スチュワートみたいに」という意見が取り入れられているという。(編集部・石井百合子)