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『ドライブ・マイ・カー』なぜ賞レース席巻?アカデミー賞候補入りの可能性は

米映画賞を席巻中の『ドライブ・マイ・カー』
米映画賞を席巻中の『ドライブ・マイ・カー』 - (c)2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

 アワードシーズンも、いよいよ本番。そんな中、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が爆走している。(Yuki Saruwatari/猿渡由紀)

『ドライブ・マイ・カー』初日舞台あいさつ【トークノーカット】

 『ドライブ・マイ・カー』は、2014年に刊行された村上春樹の短編小説集「女のいない男たち」所収の短編を、西島秀俊主演で映画化。妻を亡くした喪失感を抱える俳優・演出家の家福(西島)が2年後、演劇祭で広島へ向かうなかで寡黙な専属ドライバーのみさき(三浦透子)と出会い、彼女と過ごすうちにそれまで目を背けていたあることに気づいていく。

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 今月頭に発表されたニューヨーク映画批評家賞(New York Film Critics Circle Awards)で、今作は数々の有力作を制し、作品賞を受賞(外国語映画賞はノルウェーの『The Worst Person in the World』(原題))。18日に発表されたLA映画批評家協会賞でも、やはり作品賞を手にしたばかりか、脚本賞も受賞した。監督部門でも次点を抑えている(こちらの外国語映画賞は『Petite Maman(原題)』だった)。

各映画賞で「作品賞」を受賞する快挙

 数ある各都市の批評家協会賞の中でも、LAとニューヨークは最も注目度が高い。その両方からベスト作品に選ばれたというのは、とても大きなことだ。もっとも、これらの批評家賞の結果がオスカーと一致することは、そう多くない。というのも、これらの批評家は、すでにさんざん名前が上がっている作品や人物ばかりを選ぶのでなく、幅広く網を張って、埋もれがちなものを拾い上げようとするからだ。例えばLA映画批評家協会は、俳優賞にショーン・ベイカー監督作『Red Rocket(原題)』のサイモン・レックス(個人的にはとても嬉しかった!)、プロダクションデザイン賞にはコメディ映画『Barb and Star Go To Vista Del Mar(原題)』を選出した。英語の作品に限定されないのも昔からのことで、過去には『パラサイト 半地下の家族』(2019)、『ROMA/ローマ』(2018)が作品賞を受賞している。

 だが、『ドライブ・マイ・カー』の場合、これら二つ以外の団体からも、外国語映画という部門を超えて評価されているからすごいのだ。例えば、全世界に住む187人の批評家が投票した(筆者も投票者の一人である)レビューサイト・IndieWireのランキングでは、ジェーン・カンピオン監督の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』に次いで、作品部門の2位を獲得した。脚本部門、国際映画部門では首位、監督部門は2位。さらに俳優部門で西島秀俊が9位に入っている。オスカーでこの部門の最有力の一人と考えられている『ドリームプラン』のウィル・スミスは、彼より下の10位だ。

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米メディアの評論家たちが大胆な作風を評価

 Rolling Stone 誌も、今年のベストムービー20作品の中で、『ドライブ・マイ・カー』を1位に挙げた。同サイトのデビッド・フィアー記者は、選出理由について、「芸術、人生、喪失、癒し、許すこと、といったものに対する濱口のアプローチは独特。そして、シンプルな人間同士のやりとりを共感できるシネマにした、最も豊かな例といえる」と述べている。今作の魅力として、同じようなことを述べる批評家は多く、Chicago Tribute の評論家マイケル・フィリップスは、「芸術と人生のつながりを模索した監督は多いが、濱口は最も人間的な形でそれをやってみせた」と評価。一方、Los Angeles Times の評論家ジャスティン・チャンが「同じ言語を使っていても、人と人は本当にはわかりあえていないのだということをこの映画は語る」と書いたように、言語、言葉というメタファーに感動する声もある。それらいくつもの深い人間的なテーマを、急がず、静かに、ほぼ瞑想のような形で3時間かけて語るという、ある意味大胆で、芸術家としての信念を貫く姿勢が絶賛されていると言って良いだろう。

オスカーでどこまで健闘が期待できるか

 というところで、果たしてオスカーではどこまで健闘が期待できるのだろうか。これらの批評家賞の投票者とオスカーの投票者は、基本的にかぶらない。オスカー予測上、批評家賞はあくまで「どんな作品が評価されているのか」を見るためのものである。最も直接的に参考になるとされてきたのは、投票者がかぶる上、同じ投票形式を取る全米プロデューサー組合賞(PGA)だ。この賞の発表は年明け以降になる。

 だが、最近この“定説”は、必ずしも当てはまらなくなってきた。2020年、PGAは“アカデミー好み”とされる『1917 命をかけた伝令』(2019)に賞をあげたのに、オスカー作品賞が驚くことに韓国語映画の『パラサイト 半地下の家族』だったのは、決定的な例だ。

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 オスカーの投票母体である米映画芸術科学アカデミーは、2016年以来、投票者の多様化を進めるべく、有色人種、女性、若い人を大量に新会員に招待してきた。会員のクオリティを下げないため、海外の映画人にも注目し、その結果、アカデミーは、5年前と比べものにならないほど国際化している。それが投票結果に反映されてきたのだ。

 海外に住む映画人は、オスカーはアメリカ(あるいは、妥協してもイギリス)の映画に与えるものだという観念がない。世界各国の主要な映画祭の常連でもある彼らは、外国語の映画を見慣れているし、それらが最高賞を取るのを普通だと思っている。だから、純粋に、良いと思うかどうかで判断する。『パラサイト 半地下の家族』のサプライズ受賞には、そんな背景があったのだ。

 同じことが『ドライブ・マイ・カー』に起こることは、ありうる。今作の場合は、まず今年のカンヌで脚本賞を受賞した。その少し前のベルリン映画祭では、濱口の次の作品『偶然と想像』が審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞している。つまり、海外の映画人にとって、濱口は、今年最もホットな映画監督。Los Angeles Timesの報道によれば、LA映画批評家協会賞を決める中でも、会員から『偶然と想像』の方がより優れていたという声が出たとのことだ。良作を同じ年に2本も送り出した濱口への賞賛が、『ドライブ・マイ・カー』への票となって反映される可能性はある。

 とは言っても、オスカーまではまだ3か月もある。その間、戦況がどうなるのかはわからない。もし今作が作品賞を取れば、日本映画としては初めての快挙。今後の行方をじっくりと見守っていきたい。

西島秀俊、岡田将生、濱口竜介監督が登場!映画『ドライブ・マイ・カー』初日舞台あいさつ【トークノーカット】 » 動画の詳細
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