神木隆之介、芸歴26年 俳優を辞めたいと思ったことはない
熱狂的ファンを持つ創作集団CLAMPによるベストセラーコミックを、蜷川実花が観る者を圧倒するビジュアルで実写映画化した『ホリック xxxHOLiC』(4月29日公開)で、人の心の闇に寄りつく“アヤカシ”が見えるが故の孤独を生きる四月一日(わたぬき)を演じた神木隆之介(28)。蜷川の脳内をいかに具体化したのか? そして「俳優業に執着はない」という発言の真意を語った。
自分で居場所をつくるのは難しい
2007年『さくらん』で監督デビュー後、『ヘルタースケルター』『Diner ダイナー』『人間失格 太宰治と3人の女たち』とそのビジュアル表現に磨きをかけてきた蜷川監督が新たに挑んだのは、CLAMPによる緻密で濃厚で怪しげな美に彩られた世界。居場所を見いだせない高校生の四月一日が美しい女主人、侑子(柴咲コウ)のミセ(店)に足を踏み入れる。願いを叶える代償に、一番大切なものを差し出してという侑子の提案で、ミセに住み込みで働き始めるーー。
四月一日を演じる上で、「生きる意味も死ぬ意味もないという状況から、完璧になにかが変わるわけではなけれど確かな成長を遂げる。うすい希望を持つことを大事にしました。自分のままでいていい、うっすら本能でそう感じとっていたはずなので。その希望が不安定だからこそ、後半は迷い、半分は闇落ちみたいな気分に。落差をつけたいと思っていました」と神木。
四月一日が感じる居場所のなさ、それは多くの10代が抱くもの。自身も「親や家族はもちろん“いつでも帰っておいで”という居場所になっています。でも、順番的に先に亡くなるのは親で、自分で居場所をつくるのって難しいだろうなと。ずっと不安です。同級生や友達が結婚すると、誰かがおかえり! と言ってくれる場所、そっか……そういう手もあるのかと」とぐるぐる考えてしまうらしい。
さらに「俳優を辞めたいと思ったことはないですけど、別にいつ辞めてもいいですよという感じで。あまり執着がないんです」という。続けて「すぐどこかの会社の面接を受ける、とか全然出来ます。頑張りますよ、営業として(笑)。僕の武器は? といったら、これまでの芸歴を最大限に生かすことかなと。例えば、詳しく自己紹介をしなくても、相手が心を開いてくれるかもしれない。トップの成績をたたき出せるかもしれません!(笑)」とトボける。
一方で「ちっちゃい頃からお芝居は楽しく、それは今も変わらないので、25歳くらいまではやっていくんだろうなと思っていた」ものの、「おじいちゃんになってもやっているイメージが湧かないんです。役者で人生を終えるのが想像つかないということは、そういう未来はないのかも」と続ける。
25歳を過ぎてからは「いつ辞めてもいいんだ。せっかくなら、何か爪痕を残したい」と思うようになり、映画づくりにも意欲を見せる。また新しくこの世界に入った人のサポートにも興味があるといい、「僕の経験を話すことで、そうした人たちがなにかを感じてくれるかもしれない。困ったときに聞いてくれたら、こうしてみたら? というのは言えるかもしれません」。
欲を言うなら、主演男優賞を取りたい
柴咲コウ演じる侑子は妖艶な姿でときにキセルをくゆらせ、客を前に「ここは願いを叶えるミセ。さあ、あなたの願いは?」と尋ねる。「何かを欲するなら対価が必要」というこの映画のテーマに、「例えば職場を変えればルーティンが変わり、時間の使い方も変わるでしょう。結婚もそう。一人暮らしのように、好きに時間を使うのは無理になりますよね。ダイエットしたいなら、好きなものばかりは食べられないし」とうなずく部分が多いよう。
そんな彼自身はデビューして26年。俳優として生きることの対価については、「子どものときから親に『本名で活動しているので、辞めても名前でわかる。あなたが知らない人も、あなたを知る人はいるから』と言われていました。『え~別にいいよ!』と答えていましたけど」と笑う。
この軽やかさが、神木隆之介という俳優の魅力のひとつだろう。2歳でデビューした彼にとって演じることはあまりに自然なもので、16歳のときに「ブラッディ・マンデイ」シーズン2で初めて役づくりを学んだというから驚く。その3年前の「探偵学園Q」では「事件の捜査に関するセリフを言うので役と自分のバランスを考えましたし、その翌年の『風のガーデン』は自閉症の役で、研究してつくり上げましたけど」と振り返る。
子役のころから俳優として完成していたように見えたし、30歳目前の今も年齢を超えた愛くるしさがある。しかも今回の蜷川監督のようにこだわり抜いたビジュアルセンスを、「あのアニメの、こんな感じで」(蜷川監督)、「ああ、はいはい、わかりました!」(神木)と一瞬で理解して具現化する正確な演技力を、これからも多くの作り手が放ってはおかないだろう。「役を通し、その作品で伝えられるメッセージをちゃんと届ける表現力のある役者さんにならなきゃなと。それで欲を言うなら……日本アカデミー賞の主演男優賞とか取りたいです」と小声で言うのも、やはり彼らしいのだった。(取材・文:浅見祥子)