『シラノ』監督、「ゲーム・オブ・スローンズ」未見でピーター・ディンクレイジ起用していた
ミュージカル映画『シラノ』(公開中)の監督を務めたジョー・ライトが、原作であるエドモン・ロスタンの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」の魅力を語った。また、主人公シラノを演じたピーター・ディンクレイジの代表作の一つ、ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」での彼の演技を未見で、本作の主演に起用していたことを明かした。
本作の舞台は、17世紀のフランス。剣豪シラノ(ピーター・ディンクレイジ)は、剣の腕が立ち、詩の才能にも恵まれているが、自らの外見に自信がなく、思いを寄せるロクサーヌ(ヘイリー・ベネット)に告白できないでいた。そんななか、彼女が青年クリスチャン(ケルヴィン・ハリソン・Jr)に惹かれていることを知り、愛情を言葉で表現することが得意ではないクリスチャンの代わりにロクサーヌへのラブレターを書くことになるのだった。
“なりすまし”を描いた代表作でもある原作について、監督は「素晴らしい文学の一つ。わかりやすく、完璧な構造。真の感情を語っていて、物語が本当にしっかりしている」と昔から好きだったそう。ただ、「ピーターがシラノを演じることになるまで、現代的な映画化のアプローチに悩んでいました」と試行錯誤があったという。
本作のシラノは、原作とは違い、大きな鼻という設定がなくなっている。「(原作の)大きな鼻は、シラノが自分自身に不安を感じる要因でした。私たちはその鼻を取ることで、シラノをより普通の人として描けるようにしました」と説明。「だれもが何かしらの不安や不満を抱えています。愛の価値を確かめるための大きな鼻は必要ないと私たちは判断しました」と語る。
ピーターを起用したことについては、「成功している映画というのは、才能ある俳優が、適切な役を演じ、相応しい時代・タイミングにつくられていることが多い」と自信をのぞかせる。そんなピーターは、「ゲーム・オブ・スローンズ」の人気キャラ、ティリオン・ラニスター役で知られるが、監督は「『ゲーム・オブ・スローンズ』での彼の演技を観ていなかったんです」と打ち明ける。
ほかの出演作は観ているそうで、「『リビング・イン・オブリビオン/悪夢の撮影日誌』(1995)まで遡り、彼の映画を観ました。『ステーション・エージェント』(2003)という映画が特に印象的でした」と語り、起用の決め手は、舞台版の「シラノ」でピーターの演技を観たことだったという。「彼の人生経験が、この役のすべてをもたらしていました。他人に対する信頼の喪失や、おそらくいい意味で、防御としてユーモアを用いたり。いい意味で、彼のすべてが役に込められていました。舞台で観た、親しみのあるシラノを映画でも描きたかったんです」と熱弁する。
また、原作とのもう一つの違いは「ヒロイン、ロクサーヌの描き方」だという。「エドモン・ロスタンは、彼女の文字通り“野心が強い”ところなどをあまり深く考えていなかったと思います。私は、彼女をパワフルで、賢い女性として描きました」と登場人物たちを深堀していった。なお、ロクサーヌ役のヘイリー・ベネットとはパートナーの関係にもあり、「ヘイリーは、彼女の世代のなかでもトップに相応しい、最も素晴らしい俳優の一人」と絶賛していた。
3~4年前から本作に携わってきた監督は、「作品に関わり始めたときに、頭に浮かんだものは、現代のソーシャルメディアでした」と振り返る。「僕にとって、この映画は、人との関わり合いの重要性や、他人と通じ合うことの難しさを描いたものです。ソーシャルメディアの時代のなかで、本当の意味での他人と通じ合うことに難しさを感じでいます。そういったことが頭にあった最中、パンデミックが起こり、文字通り我々は、離れ離れになり、他人と繋がることを遮断されてしまいました。そして、この作品を今、作らなければならないと感じました」とコロナ禍での撮影も含め、人とのつながりの重要さを痛感したという。(編集部・梅山富美子)