『余命10年』小松菜奈が涙の熱演で魅せる…1年かけて心身ともに役づくり
現在公開中の『余命10年』で坂口健太郎とともに主演を務めている小松菜奈。数万人に一人という不治の病を患う主人公を演じ、胸に迫る涙の熱演を披露している。
『新聞記者』『ヤクザと家族 The Family』などの藤井道人が監督した『余命10年』は、2007年に刊行された小坂流加さんの同名小説が原作のラブストーリー。数万人に一人という不治の病で、余命が10年であることを知った20歳の茉莉(まつり)が、あるとき参加した地元の同窓会で和人(かずと)と出会い、心を動かす姿が描かれる。
小松が演じた主人公の茉莉は、生きることに執着しないよう恋だけは決してしないと心に決めるも、和人とであったことで揺れる思いを抱えることに。予想外に訪れた運命的な出会いに戸惑いを感じながらも喜びを隠せない一方、日に日に迫りくる最期の時に胸を押しつぶされそうになる茉莉。そんな彼女の繊細な気持ちを小松が心身ともに行った役づくりによる熱演で表現している。
原作小説の著者である小坂流加さんは作中の茉莉と同様に難病を抱え、2017年に文庫化を待たずしてこの世を去った。小松は撮影の前に原作者の実家にも足を運んだという。「撮影が始まる前に小坂家の皆さんとお話させていただきました。流加さんがどのような性格の方だったのか、どんなものに興味があったのか、どんな場所が好きだったのか、藤井監督と一緒に細部にわたってお話を伺いました」という小松。真摯な思いで作り上げたヒロイン像は、小松の新たな代表作ともなるはずだ。
劇中、10年という月日について茉莉が「長いんだか、短いんだか」と語る印象的なセリフがあるが、物語にもさまざまな季節が登場し、二人の恋を彩っていく。撮影も1年かけてじっくり行われ、とりわけ重要な役割を果たすのが、茉莉と和人が飲み会に参加したあと、ライトアップされた桜並木が続く川沿いを二人で歩くシーン。桜吹雪が舞う場面は二人の距離が近づくきっかけとなるが、劇的すぎない演出が本作の性格を象徴しているように感じられる。この場面のために桜の満開を待って撮影日をずらしたそうで、藤井監督も「決定的なセリフも説明がないけれど、絶対に伝わるから信じてほしいと啖呵を切った」と振り返るほどのこだわりがあったという。
病と闘いながらも夢に向かって奮闘し、和人の気持ちも変化させていく茉莉。そんな彼女を全身で演じた小松は「泣いたり、笑ったり、怒ったり、茉莉として感情をむき出しにしてお芝居をしていると、壁みたいなものがどんどんなくなって、役との境目がわからなくなってくるんです。そんな撮影が約1年続いたので、茉莉としての時間をちゃんと生きてきたことが、きっと画面にあふれ出ているのだと思います」と語る。『余命10年』は熱演により小松の魅力が存分に発揮されている。(編集部・大内啓輔)