「カムカム」錠一郎の過去に、算太の渾身のダンス…こだわりに満ちた演出の舞台裏
第20週に突入した連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(月~土、NHK総合・午前8時~ほか、土曜は1週間の振り返り)。先週の金曜日に放送された第92回では、錠一郎(オダギリジョー)がおもむろにトランペットを吹こうとするシーンで幕を閉じたが、続く第93回では錠一郎がトランペットを辞めてからの空白の期間にどんな思いで過ごしてきたのかが描かれた。さらに、再登場した算太(濱田岳)の情緒たっぷりのダンスなど、大きな見どころが続いている。演出を務めた安達もじりが、それぞれのシーンに込めた思いを語った。
連続テレビ小説の第105作「カムカムエヴリバディ」は、昭和から令和にわたる時代をラジオ英語講座と共に歩んだ祖母・母・娘、3世代の親子の100年を描いた物語。現在は、三代目ヒロインのひなた(川栄李奈)のストーリーが描かれている。
第93話の冒頭、桃太郎(青木柚)の失恋で家族が大モメになるなか、錠一郎はおもむろにトランペットを構えるも、音はほとんど鳴らない。錠一郎がトランペットの音を華麗に奏でることを期待していた視聴者も多かったはずだが、安達は「錠一郎さんがトランペットを吹けなくなるというのは、初期の段階から(脚本家の)藤本有紀さんの構想にありました。吹けなくなる状態をどう表現していくか、そしてその後の生活をどう描くか、ということが、とても難しかったですね」と語る。
さらに「るい(深津絵里)さんはもちろん、視聴者の方も錠一郎さんがトランペットを吹けるようになっていたらいいなと期待していたと思うんです」とハッピーな展開も考えたという安達。「でも、実際の音楽をやっている人でも、いろいろな原因で楽器演奏ができなくなったあと、そこから再起を果たせなかった人もたくさんいらっしゃって……。そこはあまり夢物語にしない方がいいのかなと藤本さんとはお話をしたんです」とストーリーラインについて思いを明かす。
その後、錠一郎は娘のひなた(川栄)と桃太郎に自身の過去を告白し、どんなことがあっても人生は続いていくこと、生きていれば日向の道を歩いていけることを説く。そんな錠一郎だったが、第94回で算太がダンスを踊るシーンでは、楽しそうにおもちゃのピアノを演奏するシーンも。
「音楽に対して悩み苦しんでいた錠一郎さんでも、やっぱり心のなかにはちゃんと音楽があり、離れていないんだということを表現したかったんです」とシーンの意図を語る。「算太のこだわったエンターテインメントを見て、なにか触発されて、うまく立ち直ってくれるといいなという思いを込めて演出しました」
第94回では、安子の前から姿を消してからの算太の人生もクローズアップされた。商店街でサンタクロースの格好をした算太が、幼き安子に懇願されて踊り始めたダンスシーンは、過去の映像と現在がシンクロして、何とも言えない哀愁と楽しさがあふれていた。
「算太の感情が染み出るシーンだったので、ある程度尺が必要でした。ダンスを作ることが大変ではあったのですが、濱田さんが『ちゃんと踊りたいんです』と仰って、ダンス指導の先生と真剣勝負で挑みました。しっかりと振り付けにも意味合いを持たせ、濱田さんとも裏設定も考えて。もちろん、あの年齢で病気を抱えた算太がどこまで踊れるのか、という議論はありましたが、やっぱり楽しく踊って欲しいという思いがあったので、あのような表現になりました」
このダンスのシーンでは幼い頃の安子(網本唯舞葵)の姿も登場。回想から現実に戻った場面でも、濱田からは「最後までしっかり安子のために踊りたい」という話があったそうで、現実に戻って商店街で踊るシーンでは実際に、映像には映らない場所に網本がいたのだとか。安達自身も「現場で演出していて、懐かしくもありホロっとしてしまいました」と思い出に残るシーンとなったことを明かした。(取材・文:磯部正和)