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オスカー監督賞最有力!『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ジェーン・カンピオンとは?

第94回アカデミー賞

前哨戦とされる第74回全米監督組合(DGA)賞も受賞したジェーン・カンピオン監督
前哨戦とされる第74回全米監督組合(DGA)賞も受賞したジェーン・カンピオン監督 - Jesse Grant / Getty Images

 オスカー授賞式まで1週間。ふたを開けてみるまでわからないのがオスカーの楽しさだが、今からはっきりしていることが二つある。一つは『ドライブ・マイ・カー』の国際長編映画賞受賞。もう一つはジェーン・カンピオン(『パワー・オブ・ザ・ドッグ』)の監督賞受賞だ。キャンペーン担当者が「監督が素晴らしいということは作品もそうだということを忘れないで」と投票者に呼び掛けるほど、今作を配信するNetflixもこの部門には手応えを感じている。(取材・文:猿渡由紀)

【画像】キャスト4名がオスカーノミネートを果たした『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

 人々がカンピオンの受賞を望むのにはいくつかの理由があるが、一番重要なのは、彼女が長いこと尊敬されてきたフィルムメーカーであるということだ。ニュージーランド出身の彼女が『ピアノ・レッスン』で初めてオスカー監督部門にノミネートされたのは、1994年。過去にこの部門にノミネートされた女性はたった7人で、カンピオンは史上2人目だ。今回、彼女はキャリア2度目の候補入りを果たしたが、女性が2度この部門にノミネートされたのは、オスカー史上初めてである。

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 そして『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、彼女にとって、なんと12年ぶりの長編映画でもあるのだ。この間、カンピオンはテレビドラマを手掛けてきたのだが、彼女の作品をまたビッグスクリーンで観たいという映画ファンの願いが、ようやくかなったのである。

 今作で劇場用映画に復帰したことについて会見で聞かれると、カンピオンは「テレビシリーズをずっとやってきたから、そろそろまた2時間で済ませるのも良いなと思って」とまずは冗談で返した。だが、続いて「シネマを祝福したいと思ったの。映画に夢中になり始めた子供の頃に自分自身が感じたようなことを観客に感じさせてあげるものを作りたいと。とても美しくて、エキサイティングで、深いテーマがある映画を。トーマス・サヴェージの原作小説には、その要素が詰まっていた」と本当の気持ちを語っている。

 その小説にはまた、彼女の過去作とはまるで違うものがあった。主人公が男性なのだ。『エンジェル・アット・マイ・テーブル』『ある貴婦人の肖像』『ブライト・スター ~いちばん美しい恋の詩(うた)~』など、リアルかつ美しい女性の物語を女性ならではの視点で語ってきたカンピオンは、その意味で、キャリアのターニングポイントを迎えたのである。それもまた、彼女の作品を観てきた人々にとって興味深いところだ。

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 「男らしさというテーマは、決してわたしの得意分野ではない。でも、そのことに対する好奇心はあったわ。#MeToo 運動が起こったことで、この業界が大きく変わったことも関係している。女性が出てきやすい環境になったおかげで、わたしは、女性の話以外を語っても良いんだと感じるようになったの。それまでは女性監督があまりいなかったから、女性以外の話を選ぶことは裏切りのような気がしていたのよ。もちろん、まだ変化は始まったばかりで、まだまだ完全ではない。でも、もう自分はそこにとらわれなくても良いのだと感じているの」

パワー・オブ・ザ・ドッグ
主演はベネディクト・カンバーバッチ - Netflix映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』独占配信中

 主演のベネディクト・カンバーバッチは「ここまでじっくりと監督と一緒にキャラクター作りをしたことは、過去になかった」と語る。その過程では、二人で一緒に夢の分析の専門家に会いにも行ったりもしたそうだ。そうやって知った潜在意識の中にある自分の感情を、役になりきった時に使うのだという。そんな細やかかつ丁寧なアプローチが、この映画の演技を優れたものにしているのだ。演技部門に4人が候補入りを果たしたのも、それを証明する。

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 そしてもう一つ、今年の監督部門について語る上では“スピルバーグの要素”にも触れておきたい。前回候補入りした時、カンピオンはスピルバーグ(『シンドラーのリスト』)に負けて賞を逃した。スピルバーグは文句なくオスカーに値するものの、彼はそれまで受賞したことがなかっただけに、「彼にはそろそろ取らせてあげようよ」というムードがあったのも確かだ。今回、スピルバーグは『ウエスト・サイド・ストーリー』でノミネートされており、カンピオンと再び顔合わせとなる。しかし、前回とは逆に、今回は「今度こそ彼女に取らせてあげようよ」という空気が流れている。それに関しては、スピルバーグ本人も文句はないだろう。

 そんなふうに、今回のオスカーはカンピオンへの祝福ムードに溢れるものになりそうだが、最多ノミネーションを果たしたこの映画が他の部門でどれだけ健闘するかも注目されるところだ。主演男優部門は『ドリームプラン』のウィル・スミスが依然リードしているものの、ここへきてカンバーバッチはスミスとの差を縮めてきている。撮影部門で受賞すれば、史上初の女性となるのもエキサイティングだ。そして、この映画のトーンを作り出しているジョニー・グリーンウッドの曲。音楽に関して「優れた耳は持っていない」と自認するカンピオンは、まさに運命のように、彼の音楽に引き合わされている。

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 「この映画はオーストラリアとニュージーランドの合作なので、スタッフはほとんどその二つの国の出身者。ジョニーの書く曲は好きだったけれど、イギリス人ということで除外し、オーストラリア室内楽団の演奏を参考に聴いたの。すると、その中の一曲にすごく心を惹かれ、それを書いた作曲家は誰なのかと調べたら、なんとジョニーだったのよ。これはもう彼以外にないと感じたわ。『ピアノ・レッスン』の曲をマイケル・ナイマンにお願いした時同様、わたしは、この映画の曲に、ただのサウンドトラック以上のものを求めていた。ジョニーが作る曲が語りかけることが、この映画には絶対に必要だったの」

 もしグリーンウッドが受賞すれば、彼にとっても初のオスカーとなる。人生で特別な夜の喜びを、カンピオンは何人と分かち合うことになるだろうか。

第94回アカデミー賞授賞式は、3月28日(月)午前7時30分よりWOWOWプライム、WOWOWオンデマンドにて生中継

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