河瀬直美監督、五輪公式映画に誇り「単なるドキュメンタリーではない」
河瀬直美監督が21日、日本外国特派員協会で行われた映画『東京2020オリンピック SIDE:B』(6月24日公開)の記者会見に出席し、本作に込めた思いや、制作の裏話などを明かした。この日は、本作に出演するグエム・アブラハム選手(陸上男子1,500メートル南スーダン代表)、沖縄県座間味村長の宮里哲も同席した。
【動画】五輪の舞台裏で何が起きたのか…『東京2020オリンピック SIDE:B』予告編
2021年に行われた「東京2020オリンピック」の公式映画として、大会に携わった関係者やボランティア、医療従事者、一般市民など、アスリート以外の人たちの舞台裏にフォーカスした本作。新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中、1年の延期期間を含む750日にわたる取材を敢行し、アスリートを支える人たちやオリンピック中止を叫ぶデモ隊の様子などを撮影した。
制作過程で内容に変更があったか問われた河瀬監督は、コロナ禍により「プランニングしていたものとは全く違うものになりました」と打ち明け、「だからこそA(アスリートにフォーカスした『東京2020オリンピック SIDE:A』)とBを作らなければいけないと思いました。アスリートにだけフォーカスしたこれまでのオリンピックのドキュメンタリー映画ではなく、この時代に何が起こっていたのか、開催するために尽力した人、もしくは大反対した人たちの思いも含めて描かなければいけないと思いました」と当時の心境を語る。
さらに「100年、200年後の人たちにも別のウイルスがやって来て、オリンピックの開催が困難になったときに指針になる映画であらねばならない」という使命感を持っていたことも明かし、「単なるドキュメンタリーではなく、わたしが見た時代の証、現実を映画監督として映画にしたつもりです」と力を込めた。
河瀬監督らしい作品で、劇中の河瀬監督の声が印象に残ったという記者から「映画の中に自分の声を入れる理由は?」と質問が飛ぶと、河瀬監督は「あれはわたしの声ではないです」とぶっちゃけて記者を拍子抜けさせつつ、「わたしの映画は最初の(頃の)プライベートドキュメンタリーからフィクションの部分はあるんじゃないかなと思う」と説明。また、ドキュメンタリー映画は監督の“まなざし”によって異なったものになるため、「わたしが撮るのと是枝(裕和)監督が撮るのは、同じ現実がそこにあってもまったく違う映画になる」と言及する。
そして、「河瀬映画として観ていただいている。これこそ、自分が3年半かけて、これまでの映画監督としてのスキルを全部投影して作り上げたものと誇りをもって言えますし、市川崑(1964年の東京オリンピックの記録映画の総監督)時代と同じお金しか使わせてもらっておりません。1年延期になって追加予算もほぼないです」と潤沢ではない予算の中で作り上げた本作に胸を張った。(錦怜那)