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『MISS OSAKA』に見る、合作がもたらす日本映画界の意識改革

森山未來、阿部純子、南果歩出演のデンマーク・ノルウェー・日本合作『MISS OSAKA』より
森山未來、阿部純子、南果歩出演のデンマーク・ノルウェー・日本合作『MISS OSAKA』より - (C)Haslund Dencik Entertainment

 日米共同制作ドラマ「TOKYO VICE」、Apple TV+「Pachinko パチンコ」、ブラッド・ピット主演『ブレット・トレイン』(9月1日公開)など日本の多様な文化を伝える海外作品が増えている。3月に開催された大阪アジアン映画祭でクロージングを飾ったデンマーク・ノルウェー・日本合作『MISS OSAKA』(年内公開)もその一つだ。何が彼らを引きつけるのか。共同プロデューサーで、映画『ドライブ・マイ・カー』も手がけた山本晃久氏に話を聞いた。

 同作の主人公は、自分に自信が持てず、彼氏に言われるがままのデンマーク女性イネス。彼のスウェーデン出張に同行した際、大阪から来た女性マリアと出会ったことから運命が動き出す。マリアが不慮の死を遂げたことを利用して、彼女になりすまし大阪で新たな人生を歩み始める展開だ。

 まず、イネスの勤務先として登場するのが、大阪・ミナミにある老舗グランドキャバレー「ミス大阪」で、同所で撮影も実施。またイネスが、マリアの元恋人・茂(森山未來)としばしば逢瀬を重ねる場所が岸和田競輪場で、レースシーンでは日本競輪選手会・大阪支部所属の選手が協力している。ほかコリアンタウン鶴橋など 同作が切り取った風景はわれわれにとっても新鮮に映るに違いない。

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森山未來
マリアの恋人・茂を演じた森山未來(左)。『MISS OSAKA』より - (C)Haslund Dencik Entertainment

 同作のプロデューサー、マイケル・ハスランド=クリステンセンから山本氏に連絡があったのは2018年8月。山本氏が海外でも高評価を受けた濱口竜介監督『寝ても覚めても』(2018)も手がけていたことから日本側の制作担当として依頼があったという。企画は、デンマークのダニエル・デンシック監督が数年前に訪れた大阪の街に魅了されたことがきっかけで脚本が膨らんでいったそうで、その際「ミス大阪」にも訪れたという。

 「最初に脚本を読んだ印象はオリエンタリズムに酔いしれているという感じではなく、日本独特の風俗や社会の裏側に引かれ、1本裏筋に入った日本の風景と、人間の性そのものを見たいという衝動を感じました。主人公のイネスは自分の生き場所を求めて日本に来るのですが、その目線は監督自身なのだと感じました」(山本氏)

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 競輪のシーンは、自転車が趣味のデンシック監督の趣向が現れているという。さらに実体験も随所に盛り込まれているようだ。

 「冒頭、僕が“タバコを吸いながらランニングする人”でエキストラ出演しています。思わず『こんな人います?』と質問したら、ダニエルに“見た”と力説されました。でも僕たちが“日本はこうだから”と決めつけてしまうのは違う。向こうも“日本について自分たちは間違った解釈をしていないか?”という不安を抱えている。ダニエルのまなざしを尊重しつつ、互いのバランスを探していったら、不思議な日本が撮れました」(山本氏)

南果歩
ナイトクラブMISS OSAKAの女主人役の南果歩。『MISS OSAKA』より - (C)Haslund Dencik Entertainment

 この大阪ロケの実現は、フィルムコミッション「大阪フィルム・カウンシル」の協力なしには語れないという。よく指摘されるように、日本は公道や公共交通機関での撮影で協力を得られにくいことや、税優遇措置がないことで、ロケ実現までのハードルは高い。加えて海外スタッフとの意思疎通に必須の語学に長けたスタッフの不足という課題もある。『MISS OSAKA』も当初はデンマーク側から「各部署のトップは、英語ができる人」という条件を展示されたという。

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 「それで人選をしていくわけですが、語学力と各部署の制作能力のバランスは難しいと多くの人に言われました。語学力に偏ると作品のクオリティーコントロールが難しくなる。そこで今回は信頼する美術デザイナーの倉本愛子さんに入っていただいたのですが、彼女は英語はできないけれど、監督にこれだけ素晴らしい仕事をしてきたんだというプレゼンをしたら納得してもらえた。それから全体的にはどちらかと言えば制作能力の面で信頼できる人を重視し、スタッフ編成しました」(山本氏)

 現在山本氏は配信作品を手がけている。そこには、日本の大手作品は売れている原作や人気俳優主導で企画が進められ、気鋭の監督がチャンスをつかむ場が与えられていないのが現状ゆえ、配信という新興のメディアが変えられないか? という思いがあるという。

 「『MISS OSAKA』のスタッフからデンマークの映画事情を聞いたら、ヒットしたらスタッフや俳優に還元される成功報酬の仕組みがあるという。日本は製作委員会方式で出資会社に配分はあっても、スタッフと分け合うという考えはない。デンマークでも良い映画を持続的に制作するためにはどのような仕組みが必要なのかが議論され、そうした方式が出てきたのでしょう。日本のスタッフ・俳優がこういう仕組みの中で制作する体験ができたことは大きいのでは」(山本氏)

 日本映画界はいま、さまざまな変革が求められている転換期に来ているが、外からの風がいい刺激となることを期待したい。(取材・文:中山治美)

『MISS OSAKA』は年内公開予定

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