「鎌倉殿の13人」大泉洋、日本中に嫌われ愛された頼朝への思い 「三谷さんの歪んだ愛が私を襲う」
小栗旬主演、三谷幸喜脚本の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(NHK総合ほか)で、源頼朝役として前半の立役者となった大泉洋。己の野心や目的のために多くの人命を犠牲にし「日本中の嫌われ者」となりながらも、死期が迫ると一転して頼朝ロスが巻き起こるなど大きな反響を呼んだ。大泉は度々組んできた三谷が脚本を手掛けた本作について「こんなドラマとこんな役にはそうそう巡り会えないなと、とっても幸せだなと思いましたね。もう、こんな役をいただいて三谷さんには感謝しかないです」と語っている。(※ネタバレあり。第26回までの詳細に触れています)。
本作は、野心とは無縁だった伊豆の若武者・北条義時(小栗)が鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした二代執権に上り詰めていく物語。3日放送・第26回のサブタイトルは「悲しむ前に」。前回のラストで落馬した頼朝は昏睡状態に陥り、政子は寝る間もなく必死に介抱する。一方で万が一に備え、義時は鎌倉殿の後継者擁立のために奔走せざるを得なくなり、密かに葬儀の準備まで進められ、頼朝は極楽へ往くために昏睡したまま出家することとなる。
頼朝は、これまで木曽義仲(青木崇高)、上総広常(佐藤浩市)、そして弟の義経(菅田将暉)、範頼(迫田孝也)らを粛清し、あまりの残酷さに腹心である義時も恐怖におびえていた。とりわけ視聴者がショックをうけたのが、第15回「足固めの儀式」。頼朝に反旗を翻す御家人たちを鎮めようとする義時に協力した上総広常を、頼朝は大江広元(栗原英雄)と結託して死に至らしめた。理不尽な裁きに激高する義時に、頼朝は「上総介は『御家人は使い捨ての駒』と言っていた。あいつも本望であろう」と言い放った。頼朝の恐ろしさを表すエピソードとして語り草となったが、大泉は当時を以下のように振り返っている。
「僕なんか今でも第15回、もう本当にあれで日本中から嫌われましたけれども(笑)。やっぱりあんなにおもしろい回はないなと思いましたね。あのときも三谷さんからメールが来て『案の定、日本中を敵に回しましたね』ってひとこと目に書いてあって、最後に『でも僕は大好きです』って書いてあって(笑)。あきらかに面白がってますよね(笑)」
「三谷さんの歪んだ愛が私をいつも襲ってます(笑)」と三谷の鞭を受け止める大泉だが、自身は頼朝をどう感じていたのか。「頼朝なりの愛情はいろんな人にあったとは思うんです。政子や子供たちだったり、義時や義経だったりへの愛情はもちろんある。ただ彼にとって一番大事なことって、自分のことや、自分の一族のことなんですよね。全ては自分の、源氏の一族が末代まで繁栄できるようにということしか考えていないんだと思うんです。もちろん兄弟は大事なんだけど、自分に取って代わる可能性が一番あるのも兄弟だったんですよね、あの時代は。だからやっぱり義経にしても、範頼にしても、排除せざるを得ない。そこがまた彼が孤独で人を信じ切れない人だからこそなんでしょうけど。ただ、あの時代を見ると、兄弟を排除する、親を排除するというのが実はものすごく多いわけです。今回はそこが見事に描かれちゃってるから、頼朝さんはどうしても嫌われちゃうんだけど、『そんなのみんなそうじゃないか!』と私は思ったりもするんですけど(笑)」
頼朝といえば女好きで、最初の妻・八重(新垣結衣)、正室の政子(小池栄子)、愛妾・亀(江口のりこ)らが頼朝を巡ってバトルを繰り広げることも。第25回では嫡男の頼家(金子大地)も妻と子がいながら別の女性を妻にしようとするシーンがあった。
「女好きは思いっきり継いでますよね。それを『女好きは我が嫡男の証だ』なんて、あれはバカなシーンでしたね。『頼もしいぞ』とか言って、バカだなと(笑)。なぜ三谷さんはここまで頼朝をダメに描くんだろう」。そうあきれながら振り返るのは、頼朝が義時からマウントをとろうとするシーン。義時と結婚した八重は孤児の救済がライフワークとなり充実した日々を送っていた。頼朝は幸せそうな八重を見て悔しくなったのか、八重との思い出をなつかしんだり、義時と八重の息子・金剛(森優理斗)が自分に似ているなどと言い困惑させていた。
「厳しい決断を政治家として下していくのはいい。だけど本当に幸せそうな八重に向かって昔の話をさんざんする、あのシーン(前出・第21回)は大変でした(笑)。こんなところまで(器の)小さを表現するのかと。ドラマ本編が43分しかない中で、ここにその尺割きます? っていう。だったらもっと他の人描いた方がいいのではと。聞いちゃったもん、『(頼朝は)なんでこんなこと言うんですか?』って。『いや、単純に腹が立っただけ。幸せな八重を見てイラッとしたんじゃない?』だって。理解できなかったです(笑)」
そんな頼朝も26回でついに退場。馬上から落ちた前話からロスが叫ばれていたが、頼朝の死については「好きに受け取ってほしいです(笑)」と大泉。「どう思うんでしょうね。あまりにも頼朝はひどく描かれてますからね。頼朝が倒す相手はものすごくいい人に、とにかく性格良く描いてるから、そりゃ頼朝が悪く見えるし、『ひどい殺され方してほしい』なんて言われてしまってる(笑)」と戦々恐々としながらも、死期迫る頼朝を描いた26回を三谷の「真骨頂」と評している。
「でも僕は、実にシンプルというか、素直に頼朝の最期が描かれていて、とっても面白いなと。25回では馬から落ちて、そのあとの 26回もまた、三谷さんらしいですよね。頼朝がただ寝てるだけっていうのは面白いなぁと。寝てる頼朝の周りでどんどん動いていく。まさに劇作家・三谷幸喜の真骨頂というか。基本、三谷さんの舞台はワンシチュエーションですよね。1つの部屋があってそこで何かがずっと起きてくのを描くのが上手な方だから。大河ドラマだから頼朝の最期も大きなうねりの中で描いていきたいだろうけど、それが、頼朝が眠ってるそこだけで起きていく。小さいんだけども、今後の鎌倉がどうなっていくかの大事な話し合いが行われていく。そして頼朝の本当の最期は政子と2人で迎えましたけど、演出の保坂慶太さんが非常によく撮ってくれて、すごく美しいカットだったんです。小池栄子さんの熱演も素晴らしかった。とても印象に残ってます」(編集部・石井百合子)