尾野真千子“娘”の将来思い涙…井浦新は優しくなだめる
尾野真千子が8日、都内・新宿武蔵野館で行われた映画『こちらあみ子』(公開中)初日舞台あいさつに井浦新と共に来場し、愛情をもって接した子役の大沢一菜について、将来「たくさんのお母さん役の人に『お母さん愛している』と言うんだろうなと思うとさみしくて……」と語り、思わず涙を浮かべる一幕があった。この日は大沢、森井勇佑監督も登壇予定だったが、共に新型コロナウイルス陽性の判断を受け、欠席となった。
【写真】応募総数330名のオーディションで選ばれた大沢の劇中写真
芥川賞作家・今村夏子のデビュー作を映画化した本作は、広島に暮らす小学5年生のあみ子(大沢)の行動が、心優しい父・哲郎(井浦)と妊娠中の母・さゆり(尾野)、お兄ちゃん(奥村天晴)ら家族や同級生など、周囲の人たちに波紋を呼んでいく過程を描くヒューマンドラマ。
応募総数330名のオーディションを勝ち抜いた新星・大沢演じる、あみ子の生命力あふれる存在感が印象的な本作。あみ子の父を演じた井浦は「彼女がいると現場がグッと明るくなって。その場の空気を一気に“あみ子化”してくれるというか。それは彼女が作っているものじゃなく、持っているもの」と指摘し、「最初に会った時からただものじゃないあみ子が生まれてしまっているぞと感じていました」と述懐。
一方、あみ子の母を演じた尾野も「作り物ではない、そのまんまの表情、仕草。普段からいるあみ子がそのままいるから、不思議な気持ちになるんです。わたしたちは芝居をしに来ているけど、そこにいるのは自然なあみ子だから、それを崩さないようにしなきゃいけなかった」と大沢の魅力に触れ、それがプレッシャーであると同時にワクワクしたとも。
「今日はわたしたちの子どものいいところを伝える会ですね」と井浦が笑う通り、大沢演じるあみ子が愛おしくてしょうがない様子の二人。「自分たちの役割を監督は言っていなかったですけど、あみ子と会って、自分たちの役割、なんで声をかけてくれたのかも感じました。野生の中から飛び出したあみ子のすべてを全部受けとめること。今までのキャリアをそこに注ぐ」と語る井浦の言葉に、尾野も「そうだと思う」と深くうなずいた。
そして井浦は、森井監督があみ子のような存在だったとも感じているそうで、「二人は、いつも一緒。あみ子が走れば、監督も一緒に叫んでというように。そういう二人、監督でしたね」としみじみ。
この日は舞台あいさつに登壇できなかった大沢、そして森井監督からの手紙が読み上げられた。「今日はコロナにかかってしまって。行けなくて悲しいです」という書き出しから始まった大沢の手紙は、井浦、尾野たちと仲良く過ごして家族のようだったという思いなどが切々とつづられていた。さらに森井監督の手紙には、本作に対する思い入れ、そして映画が公開されるということで、これからは観客に健やかに育ててほしいという思いなどがつづられていた。
そんな二人の手紙を聞いた井浦は、「森井監督は、映画を観てほしい気持ちと、自分だけのあみ子にしておきたい気持ちがあって。初日を迎えることはうれしいけど寂しくてしょうがないと言っていたのを思い出しました……。なのに今日は二人がいない」と続けてどっと沸いた会場内。尾野も「先延ばしにしたかったのかもね」と続けていた。
しかし、作品が初日を迎えることに寂しさを感じるのは監督だけでなく、二人とも同じ気持ちだという。「今日、公開されるということで。これで『こちらあみ子』の舞台あいさつは終わってしまうんですよね」と切り出した尾野は、「(大沢が)ここから大きくなって。これからたくさんのお母さん役の人に『お母さん愛している』と言うんだろうなと思うとさみしくて。わたしだけのあみ子だったのに……」と正直な思いを吐露しつつも、「でもそれはわたしたちにとってもうれしいこと。皆さんにあみ子を愛してもらえることを喜ばないと」と自分に言い聞かせるように語ると、思わず涙ぐむ。その姿を見た井浦は「泣かないでくださいよ」と優しく呼びかけていた。(取材・文:壬生智裕)