夢枕獏、故・谷口ジローさんに感謝『神々の山嶺』フランスアニメ版を絶賛
作家の夢枕獏が7日、新宿ピカデリーで行われたアニメーション映画『神々の山嶺』公開前夜祭トークイベントに本作プロデューサーのジャン=シャルル・オストレロとともに出席、本作のベースとなった漫画版の作画を担当した故・谷口ジローさんを偲び、「谷口ジローさんが漫画化してくれなければ、この映画がフランスで作られることはなかった」と感謝の思いを述べた。
夢枕獏(作)・谷口ジロー(画)による人気コミックをフランスでアニメ映画化した本作は、孤高のクライマー・羽生丈二と、彼を追うカメラマン・深町誠が前人未到の挑戦に立ち向かう姿を描いた物語。ひとあし先に公開されているフランスでも高い評価を受け、ロングランヒットを記録しているという。
映画上映前に登壇した夢枕は「もう何度かこの映画を観させていただいたんですけど、たいへんすばらしい出来。この映画には、1980年代の日本の居酒屋の様子や、東京の風景などが出てくるんですけど、それがすごくよく出来ていて。よく取材しているなと思いました」と感心した様子で切り出すと、「よく日本の原作を海外で映画化する時は、アニメでも実写でも、主人公のひとりをわれわれの国の人間にしていいかと聞かれるんですが、今回はそういうことはいっさいなくて。まったく原作通りで、日本人が主人公の日本の映画という印象。フランスでよく作ったなと思いましたね」としみじみ語る。
さらに「谷口ジローさんが漫画化してくれなければ、この映画がフランスで作られることはなかった」と続けた夢枕は、「たまにフランスに行って。お前誰だと言われることがあるんですけど、谷口ジローの漫画の原作者だよというと『おお!』と言われるくらい、谷口さんはフランスで人気の漫画家なんです」と紹介。2017年に逝去した谷口さんに向けるように「谷口さんにはぜひこの場にいてほしかったと、本当に思います」と思いを馳せた。
今回来日したプロデューサーのオストレロは、フランスで刊行されたコミックに魅せられて映画化権を獲得したといい、「この映画がヨーロッパ、そして日本で公開されるというのは本当に象徴的なことですし、この映画にとっても、日本で公開されるということは本当に大切なことだと思っています」と語るなど、日本公開に対する思いもひとしおの様子。
そんな本作が映画化されると聞いたときは「一瞬、信じられなかった」と振り返る夢枕は、「アニメは、ファンタジーものや、ファイトものなどが主流で、僕も好きでよく観ているんですが、こういうものをアニメにしても面白いんだな、ということを、情けないことに、この映画で教わった。この映画で日本のアニメに新しい扉が開くんじゃないかと期待してます」と笑顔。
特に本作は大スクリーンで観てほしいという思いがあるそうで、「最初に小さい画面で観て。その時はその時でいいなとは思っていたんですが、その後に大きなスクリーンで観ると、細かい山の描写などもしっかりと見えてきた。大きい画面じゃないと伝わらないものがあるなと。それを強く感じました」と語った夢枕は、「これは相当なご苦労があったんじゃないかなと。映画の制作に関わってくださった皆さんには感謝したいと思います」とオストレロに向けて、あらためて感謝の思いを述べていた。(取材・文:壬生智裕)
映画『神々の山嶺』は7月8日より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開