『ONE PIECE FILM RED』ウタのライブシーン演出秘話 谷口悟朗監督&尾田栄一郎が求めた“カッコよさ”
人気アニメ「ONE PIECE」の3年ぶり新作映画『ONE PIECE FILM RED』(全国公開中)を手がけた谷口悟朗監督がインタビューに応じ、本編を彩るシャンクスの娘・ウタのライブシーンに関する演出のこだわりや、総合プロデューサーを務める原作者・尾田栄一郎から求められたポイントを明かした。
【動画】シャンクスの“娘”ってどんな人物?ウタ役・名塚佳織を直撃
“歌声”と“赤髪”をテーマに描く『ONE PIECE FILM RED』は、別次元と評される歌声を持つ世界的歌姫・ウタをめぐる物語。赤髪海賊団を率いる四皇・シャンクスの娘でもあるウタは劇中、主人公ルフィ率いる麦わらの一味も訪れる音楽の島・エレジアで、初めて公に姿を現すライブを開催する。
■華やかであってこそ『ONE PIECE』 悩んだライブ演出
ウタ役として起用されたのは、アニメ「交響詩篇エウレカセブン」などで知られる声優の名塚佳織(ボイスキャスト)と、「うっせぇわ」で社会現象を巻き起こしたアーティストのAdo(歌唱キャスト)。谷口監督は名塚の声について「(Adoさんの歌声を)役者として咀嚼していて、それが生かされています」と太鼓判を押すと、「Adoさんと名塚さんで作り上げたのがウタというキャラクターです」と説明する。
Adoの起用は、スタッフ陣の希望でもあったとのこと。「尾田さんからも『Adoさんで行きましょう!』という言葉があったので、実際にお願いをしました。決め手の一つは、彼女の声の表情がパワフルな部分です。ウタ役には、表情の下にあるキャラクターならではの情念、その根底に生真面目さというべき部分がある歌声が必要。Adoさんはその全てに合致していました」
ウタは、きらびやかなライトに水&炎などの特殊効果を多用した圧巻のライブを披露し、エレジアに集まったファンを魅了する。ライブの構成に「散々悩んだ」という谷口監督は、「ONE PIECE」という作品自体が放つ華やかさを追求していった。「最初のころは、『ONE PIECE』の世界に電気は存在するのか? 電気を制御する機材はあるのか? など、色々と考えていました。ですが、『考えすぎはダメだ』ということに気がついたんです。まず、華やかであってこそ『ONE PIECE』なので、自分の考えは一回捨てよう! という結論に至りました。制作チームで表現可能なベストなもの。その範囲で構成できる演出を振り分けていったのが、今回のライブシーンになります」
■歌声だけをシンプルに聞かせたい 1曲目「新時代」の狙い
総合プロデューサーの尾田がウタに求めたのは“カッコよさ”だと谷口監督は証言する。「時代毎にカッコよさの判断基準が違ったりもするので、かなり細かく途中途中のデータをやり取りしながら作業を進めていきました」。谷口監督は、ライブシーンを担当した小牧助監督、ウタの振り付けを考えた演出振付家のMIKIKOと共に、各楽曲に相応しい演出を考案していった。
尾田の要求に応えるかのように、ライブの1曲目「新時代」ではウタのカッコよさが存分に堪能できる。「みなさんが最初に聴く楽曲なので、アップテンポでいきたかった。しかし……」と語る谷口監督は、楽曲を提供した中田ヤスタカに「楽曲の冒頭にウタの歌声だけをシンプルに聞かせてあげたい」と依頼したという。
「歌詞に関しては、ウタの華やかな世界に、観客を招こうとしている意思を伝えてほしいとお願いしています。ウタの振り付けも一番わかりやすく、ライブ演出もプロジェクションマッピングであったり、炎や水など自由自在に切り替えながら仕上げています」
■ライブらしい手拍子パートも!
続く2曲目「私は最強」はMrs. GREEN APPLEが提供した疾走感ある楽曲だ。谷口監督曰く「自己肯定」を歌った曲であるそうで、「完全なる自己肯定であるがゆえに『私は最強』だということ。過度に力強くしないように意識しています。演出では、照明によるライティングの変化、フレーム外から映し出されている景色、レーザービームによる光と影をベースとしたプランで進めていきました」と解説する。
Vaundyが提供した3曲目「逆光」では、「最初の2曲とは違い、ある種の攻撃性を強く表現しています」と語る谷口監督。曲に入る前には、実際のライブ会場で見られるクラップ(手拍子)パートを採用し、臨場感を演出した。「曲全体の前奏や独立したものになっても構わないので、クラップパートがほしいとお願いしました。客席がライブハウスとして一体化したところで、攻撃的な『逆光』が流れるという構成でお願いしています」
完成したウタのライブシーンについて、谷口監督は「指揮をとってくださった助監督の小牧さんと、振り付けなどでご協力いただいたMIKIKOさんたちの力によるものだと思います。私自身も大変満足しています」と笑顔。これから作品を鑑賞する人に向けて、「ぜひ深いことを考えず、ライブシーンは頭を空っぽにして観てほしい。その時だけは曲を存分に楽しむということにシフトしていただいた方が、より楽しめると思います」と呼びかけていた。(取材・文:編集部・倉本拓弥)