二宮和也、苦手だからこそ長続きした芸能界
第一線を走り続け、多くの人を魅了し続ける二宮和也が、映画『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』『アキラとあきら』と幅広いジャンルの作品を手掛ける三木孝浩監督とタッグを組んだ最新作『TANG タング』(8月11日公開)。記憶を失くした迷子のポンコツロボットと人生に迷うダメ夫の絆を描く本作に挑んだ二宮が、撮影を振り返り、仕事への向き合い方などを語った。
二宮和也のリラックスした表情!『TANG タング』オフショット【写真】
“仕事”を意識したのは入所して2か月
Q:演じた健はロボットのタングとの出会いによって過去の傷、苦手なものを乗り越えます。ご自身も、そうした経験が?
もともとコミュニケーションや集団行動が得意ではなく、このお仕事自体が苦手な分野でした。幼い頃からゲームのコントローラーを握り続け、右のボタンを押せば相手は右に行ってくれる、そんな人生だったので(笑)。それでも四半世紀、苦手だったからこそ答えが出ず、長続きしたのかも。いまようやく演じるキャラクターを通して、人間の感情と向き合えるようになったのかもしれません。
Q:仕事を始められたのは十代。仕事として認識するのも時間がかかりそうな年齢ですが?
僕は早かったですよ、入所して2か月くらいかも。初めて出演したのはV6のコンサートでしたが、八の字型のセンターステージをチャリンコを漕いで回るという役割で。それをひと夏、20ステージほどやり続け、すべてのコンサートが終わったあとにギャラをもらいました。茶封筒に二宮和也とハンコが押されていて。14歳での初任給はもう歓喜! これはお仕事なんだと、改めて思いました。このままチャリンコを漕ぎ続けてお金もらえる人生ってスゴイかも! と(笑)。
自分に興味はない、自分のことを考えることは時間の無駄
Q:主人公のどこに共感しましたか?
僕自身は思ったことは言うし、やりたくないことはやらない。健とは逆で、基本的にだらだらしてません。だから健を動かすなら、自分と逆をやり続ければいいのかなと。それで今回は監督さんに逐一演出をつけていただきました。僕がなにか考えるというより、監督の演出になるべく速くレスポンスする。「わからない」と現場を止めてしまわないようにすることの繰り返しでしたね。
Q:これまでの役は悩んだり傷ついたり、繊細な人物が多い気もします。
僕はそこまで役に共感したことがありません。自分に興味がなく、自分のことを考えるのって時間の無駄な気がして。30年以上も生きてきた人間を「おっちょこちょいで気が短い」など、二言三言で表現するのは嘘くさいですよね。調子のいいとき、機嫌の悪い日もあるだろうし。だから性格はこう、なんて考えなくていい。観客の方に、そこに映る人たちの関係性がどう見えるかをプレゼンし続けます。場面場面の感情だけでいい。だからどの作品も、共演する皆さんにつくり上げていただくという感覚です。
ある程度の負けも必要、という考え
Q:健はタングとの出会いで成長を遂げます。ご自身は、そうした出会いは?
そこまで悩んだこともなくて……。ただ新しいものに触れるとき、一流の人に教えてもらえて面白がれたなと。バク転ひとつをとっても、ロジカルに教えてくれる人がいます。最終的には根性論になるかもしれませんが、「怖くてできない」で終わらずに済む。それで年齢を重ねると新しいことになかなか出会えないものでしょうが、YouTubeとか、いまだに定期的にあるのはありがたい。それでなんとなく今の時代にフィットしている、ように見えてます(笑)。
Q:新しいものと出会い続けて、時代にフィットしていくことが大事?
以前は浮世離れしたトークを使われることが多かったですよね。「電車乗ります?」「乗りますよ」「え~電車乗るんですか!?」という謎の会話がよくありました(笑)。芸能人がやらなそうなことをやるからと好感度が揺れ動いた気がしますが、いま「電車の乗り方がわからない」と言ったらシンプルに引かれます。いや調べろよ! って(笑)。なにかに強い興味を持ち、より熱量のある人がフィーチャーされやすい時代です。そうした人が集まって楽しんでいるものは観てもらえる。たぶん、映画がそもそもそういうもの。誰もが簡単に発信できる世の中になって「知らない」「興味ない」みたいな人はどんどんいなくなってしまう。すると危機感がうまれ、新しいことを覚えなきゃいけないなと思う。そうしたとき周りに支えてくれる人がいたから、面白がって学ぶことができたのは感謝です。
Q:好きなことをやっていても、気持ちが落ち込むときは?
僕はある程度、楽しく仕事をしていきたいと思っているタイプ。違うベクトルの話かもしれませんが、興行に関して、「勝った」「負けた」が存在してもあまり気にしません。つぎに「勝てる!」という算段が見えている仕事をいただいているなら、ある程度の負けも必要だなと。次の作品でどれだけ数字が上がるのか? その上がり幅ではなく、上がったり下がったりがあるレンジで勝負したいタイプ。結果的に動いていれば、あまりストレスを感じないで生きられます。
Q:結果には一喜一憂しない?
しません。さすがに負けがこむのは嫌でしょうけど、それは僕らの仕事ではどうしてもついて回ることでもあります。でも例えば半年前の特番の数字がどうだったか、自分にとっては大きいものだったとしても、世の中の人はどんどん更新されてしまいます。いい作品が数字もいいとは限りないし、それを調整することもできませんしね。
ゼロからイチではなく、ゼロに戻る物語
Q:これから映画を観る人へ。
生きづらい世の中になり、「だからこそ頑張ろう!」というのもさすがにしんどい。そこで壊れたものを直してさらに進む、ゼロからイチに進むんじゃなく、ゼロに戻る物語。大人がスタート位置に戻った、というのをこの映画のエンドにしたいと思っていました。その先に健が失敗しないで進むかどうかはその先の話で。だから観る方も頑張り過ぎずに。ゼロに戻ったあとどっちに行きたいのかな? って、そんな時間を過ごしてもいいんじゃないかと。そんなまぶしすぎない熱すぎない、あったかい映画になったと思っています。
(取材・文:浅見祥子)