マーベル・スタジオ重役、“マーベル疲れ”への懸念はなし
先月、3年ぶりに対面で本格開催されたサンディエゴのコミコン・インターナショナルで、観客から熱狂的に迎えられたマーベル・スタジオのパネル。イベント後、マーベルのプレジデント・オブ・プロダクション(制作担当社長)として活躍するヴィクトリア・アロンソがインタビューに応じ、数多くの作品を輩出し続けているマーベルの成功の秘訣を語った。
コミコンでは、ケヴィン・ファイギが『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』をもってフェーズ4が終了することを明かし、フェーズ5とフェーズ6を含む「マルチバース・サーガ」を発表。パネルの最後を『ワカンダ・フォーエバー』が飾り、監督のライアン・クーグラーが、「5年前、まさにここで1作目のプレゼンをした時、初めて映像を見たチャドウィック(・ボーズマン)がすごく興奮していた」というエピソードを明かし、ファンの涙を誘った。
多種多様な人々から支持を受けるマーベル作品について、アロンソは「私たちが生きる社会を反映した作品にすることは不可欠です。誰もが共感できて、受け入れられるストーリーを押し出すことが重要」と語る。「多様性や包括性の欠如は、多くの場合、人々が自分達はそれぞれが違う存在だと思っていることから起こります。でも、私たちにそんなに違いはありません。ラテン系であろうと黒人であろうと、アジア人、男性、女性、ノンバイナリーであろうと関係ない。みんなが痛みや願い、夢を持っている。これまで公開してきた29作品の映画は、全てナンバーワンになりました。前例のないことです。この世界的な成功には、観客が自分たちのことを(画面上で)観たいと思っていることが関係していると思っています。世界中の子供たちが、自分を勇気づけてくれる作品を観る権利を持っていますから」。
確かに29本もヒット作を作り続けるのは信じられないような快挙だが、近年では、あまりの作品の多さに「マーベル疲れ」を懸念する声も出てきている。そこに心配はないのか尋ねると「私たちはどんなことでも心配しています。ディズニーが『もう結構。あっちに行って!』と言わないか……とかね」と笑顔。「でも、私たちのライブラリーには約6,000ものキャラクターがある。語るべきストーリーもたくさんあるんです」と語った。
「ヒーロー作品というジャンルの中で、どうすればいろいろな挑戦ができるのか。私たちにはまだ多くのアイデアがあります。世の中の大半の人たちが、20~30年にわたりテレビドラマを見てきていますが、警察ドラマや医療ドラマにうんざりしたりしていません。みんな今もそうした番組を見ていますよね。なぜなら、それらは人間を描いた物語だから。何が彼らを傷つけ、救い、愛し、どうやって苦難を乗り越えさせているのか。そうした物語はまさに、スーパーヒーローの物語でもあるんです」
「全てが超大作である必要はありませんが、もし(マーベルの)大作映画の(世界)興行収入が5億ドル(約675億円・1ドル135円計算)だったなら、それは失敗作でしょうか?(笑) ハリウッドには、大きな利益を上げていなくても、素晴らしい成功作だと見なされてきた映画が何千もあります。でも、マーベルというレンズを通すと、そう見られない。『(マーベル)疲れ』は、観客のみなさんが私たちに知らせること。その日がくるまでは、すべてのキャラクターに敬意を払い、今日における問題が何かを具体的に描き、皆さんがそれについて話し合えるようにするため努力するだけです」
アロンソはマーベル作品だけでなく、彼女の故国アルゼンチンを舞台に、1980年代に弁護士たちが軍事独裁政権のトップを起訴した実話を基にした『アルゼンチン、1985(原題) / Argentina, 1985』を製作した。これまでアロンゾは「マーベルは私に、(自分の)娘へのレガシーとして、『キャプテン・マーベル』と『ブラックパンサー』という2つの大きな柱を与えてくれた」と話してきたというが、この映画を作ったことも、娘への遺産だと言う。
「娘はこの映画を観て、『私のママも、こういうふうに戦ったのよ』と言えるんです。勇気を持って刑事司法制度を守った人々のことをたたえることはとても重要なこと。それがなければ、民主主義はありませんでした。人生には遅かれ早かれ、そういう(危機的な)状況がやって来ます。その時に何をするかが重要なんです。私たちはみんな、自分の中にスーパーヒーローを持っているのですから」(文:吉川優子/Yuko Yoshikawa)