香取慎吾、ネガティブ発言への対処法は?
3年ぶりの主演映画『犬も食わねどチャーリーは笑う』で、香取慎吾は岸井ゆきのふんする妻・日和から「旦那デスノート」なる夫の不満を投稿するサイトを通してネガティブな言葉を浴びせられる夫・裕次郎を演じた。SNSの普及で自由な意見を発信しやすくなった一方、予期せぬところから不意にやってくる悪意。主人公の裕次郎を演じた香取は、こうしたネガティブな発言に対してどんな心持ちで対処しているのだろうか。
パーフェクトビジネスアイドル!香取慎吾【インタビューカット集】
自然とカメラの前で格好つけてしまう“職業病”
本作は市井昌秀監督が、書き下ろしたオリジナル作品。「情けないダメな香取慎吾を描きたかった」と話しているように、劇中で香取が演じる裕次郎は、致命的なことをするようなダメ男ではないが、妻の心をイラつかせる行動を連発する。
香取自身、脚本を読んだ際には「ダメな男だな」と思ったというが、それでもどこかに“二枚目”の要素は残っているというイメージだったという。しかし撮影現場で市井監督と話を重ねるうちに「これはもっとダメ男なのかも」と察したという。
「どんな役でもやっぱりカメラの位置や照明の当たる場所などを確認して、自然と格好よく映ろうと体が反応してしまうんですよね」と長年一線で活躍してきたからこその“職業病”的な反応が出てしまうというが、本作では「そういったものを極力なくしていこう」と強く意識したという。
思っていることは声に出して伝えた方がいい
その結果、劇中の裕次郎は、ダメ男としてリアルに存在した。だからこそ、日和の怒りは増し“旦那デスノート”で夫の不満をスパークさせる。観客も日和に感情を乗せられるのは、香取のダメ男ぶりが生々しかったからだろう。
“旦那デスノート”に日和の罵詈雑言が投稿されていると知ってからの裕次郎の煮え切らない行動が腑に落ちないという香取。「お互い声に出して思いを伝えれば何とかなる! なんて簡単なことではないとはわかっているのですが」と前置きしつつも「でもやっぱり相手に気持ちを伝えないから、どんどん不満が膨らんでいってしまう。もちろん割り切って生活している夫婦もいるかもしれませんが、やっぱり毎日がつらいと思っている人は、声に出して相手に伝える方がいいと思う」と持論を展開する。
さらに香取は「伝わってほしくても伝わらないことってある。今日伝わらなければ明日、そして明後日でもいい。それでダメだったら諦めるかもしれないけれど、気持ちを抑えたままずっと一緒にいるのは苦しいですよね」と語る。
ネガティブな情報を見ないという選択肢はない
妻の不満を間接的に知ってしまった裕次郎。面と向かって語らず、“旦那デスノート”といったサイトでぶちまけるというのも、非常に現代的なやり方だ。香取自身は、もし自分のことが悪く書かれているとわかったうえで、こうしたサイトを見るのかーーと問うと「見ないという選択肢はない」とつぶやく。
続けて香取は「僕にとっては、見ないでいられる人の方が、メンタルが強いと思う」と笑うと「そのなかで、しっかり受け止める部分と、完全にスルーする部分の両方が必要かなと思う。どちらも同じぐらいの技術を持つことが一番いい対処法かもしれませんね」と語る。
また香取は、裕次郎の描かれ方が「とてもリアルだ」と言及する。「裕次郎が日和と家で揉めてメンタルがやられてしまうシーンが描かれますが、そのすぐ次のカットで、何事もなかったかのように仕事をするシーンになりますよね」と述べると「僕らの日常でもよくありますよね。私生活でとてもつらいことがあっても、次の日仕事では通常通り愛想よくするみたいな。映画的には苦しくて泣いたりするシーンを入れてもいいのに、それをしない。ある意味、すごくリアリティーを感じました」と本作ならではの特徴を挙げた。
パーフェクトビジネスアイドルの香取慎吾
プライベートで問題があっても、仕事では通常運転。誰もが感じる「あるある」ではあるが、人前に立つ芸能人はパブリックイメージがあるため、より苦しい思いをするのではないだろうか。しかし香取は「僕は意外と楽なんですよね」と笑う。
その理由について「だいぶ前から僕は『パーフェクトビジネスアイドルなんで』って言っています。ジョークでも『仕事なんでアイドルやっています』と言えることで、あまりとりつくろわなくていい。ファンの方もいい仕事をしたら『さすがパーフェクトビジネスアイドル』って褒めてくれます」と達観する。
夫婦の黒い感情が渦巻きながらも、鑑賞後感がさわやかなのは、市井監督が描く人物の芯にあるハートフルな部分と、香取と岸井のポップな掛け合いに起因するところが大きい。香取は岸井との共演について「少し負けそうになりましたよね」と楽しそうに語ると「僕はすごい俳優さんとお芝居をするとき、ちょっとゲーム感覚というか、心の中で『勝った!』『負けたぜ!』みたいなことを考えているんです。ゆきのちゃんとのお芝居は、すごくエキサイティングでした」と撮影を振り返った。(取材・文:磯部正和)
映画『犬も食わねどチャーリーは笑う』は9月23日より全国公開