「ガリレオ」劇場版で“お約束シーン”を封印した理由
東野圭吾の人気シリーズを福山雅治主演で連続ドラマ化した「ガリレオ」の劇場版3弾となる『沈黙のパレード』(公開中)。2007年と2013年に月9枠(フジテレビ系、毎週月曜夜9時~)で放送された連ドラ版では、福山演じる天才物理学者の湯川学が謎解きの最中に数式を書きなぐるシーンが“お約束”となっていたが、劇場版の『容疑者xの献身』(2008)、『真夏の方程式』(2013)では描かれていない。その理由について、連続ドラマ(シーズン1)をはじめ『沈黙のパレード』までの劇場版を手掛けた西谷弘監督に聞いてみた。
本シリーズは、主人公の天才物理学者・湯川学(福山)が刑事から協力依頼を受け、常識では考えられない不可思議な事件を科学的な検証と推理で解決していくミステリー。連ドラ版は1話完結型(最終話を除く)で、湯川が人体発火、幽体離脱、ポルターガイスト、火の玉、テレポーテーション、念力、ダウジングなど、警察ではお手上げの事象が絡んだ事件に挑んできた。シーズン1では柴咲コウ、シーズン2では吉高由里子がヒロインの刑事にふんし、“変人ガリレオ”と言われる湯川との掛け合いではコミカルな描写も見られたが、劇場版では打って変わってシリアスな路線に。前2作『容疑者xの献身』『真夏の方程式』では事件の背景や犯人の哀しい秘密に焦点を当てた展開が「泣ける」と話題になり、それぞれ興行収入49.2億円、33.1億円のヒットを記録した。
湯川には、謎解きの最中に閃いた際、所かまわず数式を書きなぐり考えをまとめる習性がある。それは刑事が悲鳴を上げるような高級家具だったり、車の曇った窓ガラスだったりする。最後はフレミングポーズでキメる……というのがお約束として親しまれていたが、なぜ劇場版では登場しないのか?
「連ドラのスタートと同時に映画の制作も決まっていて、当初から自分の中では表現のすみ分けをしたいと思っていました。ドラマの方はいわばコミック的アプローチ。決めポーズ、決めゼリフといったようなキャッチーな見せ場を作ることで、言葉が独り歩きしたり、真似してもらえるように。観てくださる方々が学校や職場でドラマの話をできるようにという狙いがありました。映画の方は全く逆で、小説的アプローチ。荒唐無稽な描写は極力省いて、しっかりと人間ドラマに重きを置きたいと考えていました。ドラマに合わせた方がいいという反対意見も多かったですが(笑)」
そのほか、ドラマで親しまれているのが湯川の研究室での実験や事件の再現、検証シーン。劇場版でも受け継がれているものの、ドラマに比べると控えめな印象だ。「東野先生の作品は犯人にまつわるヒューマンな話が醍醐味ですよね。しかし、連続ドラマは一時間という放送枠のなかで一話完結で描かなければならない。短編集からの原作ベースに、より主人公・湯川学を追いかけたストーリーに脚色していきました。毎回、湯川の推理を実証するための大掛かりな実験シーンもその一環です。一方、映画は長編小説からの映像化です。できるだけ原作に忠実に犯人側の心情を丁寧に描写することを心掛けていますが、その全てを表現しようとすると3時間にも、4時間にもなってしまう。どう2時間に切り取るかが、毎回勝負ですね。そして、いかに事件等が説明だけにならずに、感情で伝えられるかを意識しています」
劇場版第3作『沈黙のパレード』でも、やはりお約束シーンは登場しないのか……? 本作では、湯川の大学時代からの友人・草薙刑事(北村一輝)をキーパーソンにしたストーリーが展開。草薙が、かつて解決できなかった少女殺害事件で無罪となった男と再び対峙することになる。いまだかつてない数の登場人物も特徴で、吉田羊、檀れい、椎名桔平ら主役級のキャストたちが集結している。(編集部・石井百合子)