西島秀俊×白石和彌監督「仮面ライダー」先人から受け継ぐもの 変身に熱き想い
1980年代を代表する人気特撮「仮面ライダーBLACK」を現代にリブートする「仮面ライダーBLACK SUN」。Prime Video で一挙配信がスタートした仮面ライダー生誕50周年記念作品で、仮面ライダーBLACK SUN/南光太郎を演じた西島秀俊と、10話全てのメガホンを取った白石和彌監督が、本作に込めた子供たちへのメッセージと、“変身”への思いを語った。
西島秀俊×白石和彌監督「仮面ライダーBLACK SUN」を語る【動画インタビュー】
本作は、国が人間と怪人の共存を掲げてから半世紀を経た2022年を舞台に、怪人を統べる創世王の次期候補・南光太郎と、幽閉されしもう一人の創世王候補・仮面ライダーSHADOWMOON/秋月信彦(中村倫也)の過酷な運命を描くドラマシリーズ。西島と中村のダブル主演、『孤狼の血』などのヒットメーカー・白石監督による「仮面ライダー」作品として、発表当初からファンの間で驚きと喜びの声が上がっていた。
願っていたライダー役
オファーの経緯について「たまたま『仮面ライダーBLACK SUN』のプロデューサー(長谷川晴彦)と別の作品をやっている時に、僕が『仮面ライダー』を観ていて、とても面白いから出たいというお話をしていたんです。それがちょうどライダーの企画が生まれ始めている時だったらしくて。僕が興味があるっていうことは、その時点で知っていただけたんだと思います」と振り返った西島。現代社会を反映した正義の描き方やヒーロー像に、西島は強く惹かれていたという。
「僕が子供の頃に観ていたライダーは、世界征服を目論む悪の結社と戦う。もちろん、仮面ライダーは悪に改造されたという点が面白かったわけですけど、基本的には正義と悪がはっきりとわかれていました。でも現在のライダーは、いろいろな立場から、それぞれの正義を信じて戦っている。それが、今の世の中をよく反映していると感じていて、ヒーローが自分の正義や行為に対して悩み続ける点もとても面白い。本当に出たいと願っていたので、今回のお話はとても光栄でした」
一方の白石監督も「仮面ライダー」のオファーに「最初は冗談ですよね? という感じでした」とにわかに信じられなかったといい「そこから打ち合わせをしましょうとなって、ああ、本気なんだと。公に発表がされてからは、映画館で『楽しみにしています!』みたいに、声をかけられたりすることもありましたからね。今までそんなこと一回もなかったのに(笑)」と反響の大きさを振り返る。
そこに待っていたのが、西島の出演というさらなる驚き。「プロデューサーがけっこう興奮していて『西島さん、ライダーやりたがってるらしいよ!』と(笑)。僕は、またぁそんなことないでしょう? という感じだったんですが、オッケーをいただいて本当にビックリしました」
変身しない方が…の声も?
「仮面ライダー」に出演できても「敵役だろう……」と考えていた西島は、ライダー役のオファーを即決。しかし一点だけ条件があった。「『変身ポーズはありますか?』っていうのだけが唯一の出演条件だったというか。どうしてもポーズをやりたいという思いがありました。『シン・ウルトラマン』では変身していないですから。そこはまだ、悔しい思いを持ってます(笑)。もちろん、どちらの作品も参加できるだけでうれしいのですが」
一方、白石監督も“変身”への思いは同じ。「演出部をはじめ、いろんな人たちに、『変身しない方が、白石さんのライダーっぽいなぁ』とか、けっこう言われていたんですよ。ただ、そこは『変身はします』と。西島さんの条件に関係なしに、頑なに言い続けていました」と苦笑しながら、西島の“変身”シーンを振り返る。「変身ポーズであんなに感動することがあるのかという感じで、(本番で)西島さんが構えた瞬間に、特撮監督の田口清隆さんと目が合って。二人で感動で泣きそうになっていました」
変身ポーズはオリジナル版を踏襲しており、西島も「(オリジナル版に出演した)倉田てつをさんの変身ポーズが素晴らしいものでしたから、とにかく練習しました」と最大限のリスペクトを込めて挑戦。さらに「南光太郎の感情がピークに達した時点ではじめて“変身”するんです。演技とポーズが、同じレベルでつながる変身を今回はやりたくて。実際に感情のピークが来る段階で撮影ができたので、しっかりと気持ちを作れました」と明かす。
また、特撮ならではといえるのが、ブラックサンを演じるスーツアクターとの連携。西島にとっても初めての経験だったが、満足いく結果が得られたようだ。「光太郎の内面について、本当に細かくコミュニケーションをとっていただきました。詳しくは言えませんが、ブラックサンの状態は劇中で段階を踏むので、その時々の造型からインスピレーションを受けて、光太郎の内面はどうなっているのか、スーツアクターの方と綿密に話をさせていただいた。どのシーンでも本当に素晴らしい演技をしていただいたことに感謝しています」
子供たちへのメッセージ
全10話のシリーズでは、2022年と1972年の日本を舞台にした、差別に争う怪人たちの群像劇が展開。現代パートでは差別主義者たちが怪人にヘイトスピーチを投げかけ、過去パートでは若き怪人たちの活動が学生運動を想起させるなど、現実社会の出来事や問題が如実に反映されている。
「西島さんとも話していたことなのですが、子供が観てもわからないかもしれないけれど、背伸びしてみたら、いつかわかる作品にするということを落としどころとして考えていました。今もその気持ちは変わっていません」という白石監督。そこには、エンターテインメントに関わる大人としての信念が垣間見える。
「子供たちが大人になった時に、あの時に観た表現には、そういう意味があったのかと気が付く。そういうプレゼントのようなものを残すことは、エンターテインメントを作る大人の役割ではないかと思うんです。僕たちもそうやって、先人たちからの贈り物を受け取ってきていますから、そこを躊躇してしまったら、表現というもの自体が、先細りしてしまうのではないかと思います」
西島も、そんな白石監督の思いに共感して撮影に挑んだ。「特撮には、先人たちが当時の戦争体験であったり、現実の問題を作品に落としこんで描いてきた歴史があります。子供たちもわからないなりに、何かを感じてくれるはずと信じてやってこられた。白石監督はしっかりとそのバトンを受け継がれていると思いますし、せっかく『仮面ライダー』の50周年で作るのだから、その積み重ねてきた歴史や思いを受け取って、真剣に勝負するべきだと思っていました」
世界に発信する特撮の魅力
それだけに、Prime Video における成人向けレーティングは「残念」という2人だが、200か国以上の国と地域で配信されることに。世界に向けた日本ならではの特撮の魅力について、白石監督は「原点回帰というか、今回の怪人の造型は昭和ライダーに寄せていて、かわいいし、悲しいし、かっこいい。CGで描くのとは違う、日本独自の進化を遂げた面白さがあって、そこは海外の方も『おっ』と思ってくれるのではないかと思います」と語る。
「マーベル作品などに出てくる悪役とは全く違いますよね」という西島も、日本独自の怪人描写に自信をのぞかせた。「ブラックサンは生物感が強くて、少し怖い雰囲気もありますが、上級じゃない怪人はちゃんと服を着ていたりもしてどこかかわいい(笑)。それは海外の方も、独特だなって思うでしょうね。ただリアリティーや怖さ、強さに向かっていくのではなくて、悲哀であったり、かわいらしさであったりを怪人たちは持っている。その方が、僕たち人間と同じ場所に生きている者と感じられると思うし、魅力的な部分だと思っています」。(編集部・入倉功一)
「仮面ライダーBLACK SUN」は Prime Video で全10話独占配信中
メイク:亀田 雅/スタイリスト:カワサキ タカフミ(西島秀俊)