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【ネタバレ】身の毛もよだつ実在のシリアルキラーを描いた「ダーマー」が爆発的ヒットのワケ

身の毛もよだつ残忍な事件を起こしていた!? Netflixシリーズ「ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語」は独占配信中
身の毛もよだつ残忍な事件を起こしていた!? Netflixシリーズ「ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語」は独占配信中

 Netflixのドラマ「ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語」(全10話)が爆発的なヒットとなっている。9月21日に配信が始まって以降、視聴時間は9億3,422万時間を記録(10月30日時点)。Netflixドラマシリーズ(英語部門)としては「ストレンジャー・シングス 未知の世界」シーズン4に次ぐ歴代2位の視聴時間(配信後28日間の集計)となった。(以下、「ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語」のネタバレを含みます)(文:大山くまお)

【画像】17人を殺害した恐ろしすぎる凶悪犯……

 本作は、1978年から1991年にかけて17人もの若い男性を殺したアメリカで最も有名な連続殺人犯の一人、ジェフリー・ダーマーの人生を描く、事実をもとにしたドラマシリーズ。作品全体を陰鬱(いんうつ)なムードが覆い、酸鼻を極める描写も少なくない。では、一体何が視聴者を引きつけているのか?

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「ダーマー」が描いたのは凶行だけではない

ダーマー
何人もの黒人同性愛者に声を掛け自宅に連れ込んでいたダーマー(右)。Netflixシリーズ「ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語」は独占配信中

 1991年、クラブで声をかけた黒人の若者を殺そうとした男、ジェフリー・ダーマー(エヴァン・ピーターズ)が殺人未遂で逮捕される。彼の部屋に踏み込んだ警察は思わぬものを見つけた。彼の部屋の冷蔵庫には人間の頭部、冷凍庫には人間の心臓、酸で満たされたポリ容器には3人分の胴体が入っており、寝室には5つの頭蓋骨が飾られていたのだ。

 物語の前半では、時を行き来しながらダーマーの半生と犯行の様子を描き出していく。幼い頃に父親と行った動物の死骸の解剖、両親の不仲と離婚、動物の内臓に対する性的興奮、両親に見捨てられた孤独な高校生活、同性愛の自覚、軍の除隊とアルバイトの日々、そして最初の殺人……。

 ダーマーが狙うのは黒人やアジア系の同性愛者が多かった。彼らは社会から疎外されていたため、目立ちにくかったからだ。ダーマーは相手を殺してから死体を陵辱し、体を寸断して酸で溶かし、内臓をソテーして食べていた。時には生きたまま頭部に塩酸を注入して“ゾンビ”を作ろうともした。彼はマネキンのように意思のない相手しか愛せなかった。

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 後半は、逮捕されたダーマーの父親ライオネル(リチャード・ジェンキンス)や異変に気づいていたアパートの隣人グレンダ(ニーシー・ナッシュ)、聴覚障がい者のトニー・ヒューズ(ロドニー・バーフォード)をはじめとする被害者たちとその遺族の群像劇となる。そこで描かれるのは、アメリカ社会に根強くあった黒人と有色人種への差別感情であり、愛する家族を無惨に殺害された上で差別を受けなければいけない遺族たちの悲しみと怒りである。

 そして、ダーマーとかかわりを持ってしまった人たちは、ダーマーが逮捕されて15回分の終身刑(彼が逮捕された米ウィスコンシン州は死刑制度が廃止されている)に処されても、ダーマーの影響を受け続けることになる。

「ダーマー」を作り上げたキャストとスタッフ

グレンダ
異変に気づき警察に通報する隣人グレンダだが……。Netflixシリーズ「ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語」は独占配信中

 ダーマーを演じたのは、『X-MEN』シリーズのクイックシルバー役で知られるエヴァン・ピーターズ。端正な顔つきだが、無表情のまま淡々と凶行を繰り返すダーマーの得体の知れなさ、社会の中に居場所を見つけられない孤独感と他人の命を踏みにじる尊大さを見事に表現してみせた。実際の写真と比較すると、そのなりきりぶりに驚かされる。エヴァンは役作りのため、ダーマーと同じ服装で何か月も過ごしたと The Hollywood Reporter などでも報じられている。

 ダーマーの父親ライオネルを『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)でアカデミー助演男優賞にノミネートされたリチャード・ジェンキンス、継母シャリをジョン・ヒューズ監督作品で知られるモリー・リングウォルドが演じて脇を固めている。

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 原案、製作総指揮、共同脚本を務めたのは、「glee/グリー」、「アメリカン・ホラー・ストーリー」などを手がけたライアン・マーフィー。「マインドハンター」のカール・フランクリン、『サベイランス』(2008)のジェニファー・リンチ、「13の理由」のグレッグ・アラキらが監督を務め、重厚かつ不穏な画作りを行った。

本作に込められたライアン・マーフィーの思い

ダーマー
何度も逮捕されていたにもかかわらず、放免されていたダーマー。明らかに警察の失態! Netflixシリーズ「ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語」は独占配信中

 「ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語」が描いているのは、アメリカの暗部だ。ダーマーは殺人を犯すようになってから、すべてが露見するまで何度も微罪で警察に逮捕されていたのに、彼が白人の青年というだけで情状酌量され、放免されていた。

 また、被害に遭いそうになった黒人の青年の通報や、異変を察知した隣人の黒人女性の訴えなどを警察は受け流してきた。アジア系の少年が裸で逃げ出したときも、警察はダーマーの言い分を信じ、同性愛者同士の痴話げんかとして少年を部屋に送り返してしまった。そして少年はダーマーの凶行の餌食となった。このとき、警官たちがゲイカップルを笑いものにしていた会話が録音されており、後に露見して大きな問題となる。

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 事件の背後には、白人の特権意識、黒人やアジア系移民への差別感情、同性愛者などの性的マイノリティーへの嫌悪と無理解があった。そこに、差別感情をもとにした警察の腐敗と失態などが絡み合っている。

 しかし、これだけではダーマーの犯行は説明しきれない。物語の後半で描かれる差別の構造より、前半で描かれるダーマーの生い立ちと犯行の描写のインパクトのほうが圧倒的に上である。

 本作には、なぜダーマーがこのような性癖を持つようになり、異常な殺人を繰り返したのか、わかりやすい説明や解釈はない。ダーマーの両親は不仲で子供への愛情は十分ではなかったが、同じく有名な連続殺人犯であるジョン・ウェイン・ゲーシーやエド・ゲイン(彼らも本作に登場する)のように激しく虐待されていたわけではない。誰かに性的虐待をされたトラウマも認められていない。その一方で、ダーマーの同性愛やそれにまつわる性癖が周囲の無理解にさらされ続けた悲哀と孤独が印象的に描かれているのは、ライアン・マーフィー自身が同性愛者だからなのかもしれない。

 物語のラストで判事がこのように言う。

 「彼のような人間に簡単な答えはない。行動の理由は永遠の謎です。不愉快な事実ですが受け入れねばなりません」

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 しかし、本当にわたしたちはそれを受け入れることができるのだろうか? そんな問いかけが本作には込められているように感じる。

作品に対する反響と批判

ライオネルとシャリ
幼少期の育て方を悔やむ父ライオネル(右)となだめる継母シャリ。Netflixシリーズ「ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語」は独占配信中

 「ダーマー」が人気を博したのは、アメリカ国内で非常に有名なシリアルキラーに対する興味本位という部分が大きかっただろう。ショッキングなホラー映画が人気なように、おぞましいものを見たいという人、悪徳に引かれてしまう人というのは間違いなく存在する。実際、ダーマーは逮捕された後、一部の人たちに英雄視されることになった。「ダーマー」はそのような人の欲求に応える、悪性のエンターテインメントであることは間違いない。

 とはいえ、いたずらにショッキングな描写を売り物にしている粗雑なドラマなのかというと、そうとは言い切れない。次はどうなるかとハラハラするクリフハンガー的な展開がないにもかかわらず、目が離せなくなってしまう。ジェフリー・ダーマーという題材そのものが非常に謎めいた存在だからだろう。殺人を犯すのは論外としても、彼に心のどこかで共感している視聴者も少なからずいるはずだ。

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 一方、本作は被害者の遺族の感情を無視しているという批判も浴びている(作品によってあげた利益がどこへ行くのかという疑問も指摘されている)。これまで実在の事件をモデルにした映画やドラマは数多く作られてきたが、そのような作品のあり方が曲がり角に来ているように感じる。本作を視聴した人は、どのような議論が起こっているのかもチェックしてもらいたい。

 大切なのは、わたしたちがダーマーのような存在や被害者のことを「なかったこと」にするのではなく、忘れないようにすることだと思う。作中で隣人のグレンダが事件の跡地に記念碑を建てようとしたように、だ。この作品はそのための役割を十分に果たしているのは間違いない。

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