“静”の香川照之…プロ意識に脱帽する3監督
香川照之が主演を務める映画『宮松と山下』（公開中）の公開記念舞台あいさつが19日、新宿武蔵野館にて開催され、本作を手掛けた監督集団「5月」のメンバーである佐藤雅彦、関友太郎、平瀬謙太朗の3監督が登壇。撮影現場での香川のプロフェッショナルぶりを語り合った。
本作は、エキストラ専門俳優として活動する宮松（香川）が、数々の作品でひたすら殺される役に取り組む日常を送るなか、彼の過去を知るある人物が宮松のもとを訪れることによって巻き起こる出来事を描いた人間ドラマ。
これまでカンヌ国際映画祭にも出品された短編『八芳園』『どちらを』などを手掛けてきた監督集団「5月」の初となる長編映画。主演を務めるのは、百戦錬磨の俳優・香川。佐藤監督は「香川さんの一挙手一投足に感激した」と撮影を振り返ると、劇中、香川演じる宮松が、妹の藍（中越典子）に向けた笑顔に触れ「なんて軽やかで裏がない笑顔なんだろうとびっくりした。どうやって作り出したのか聞いたのですが、秘密は教えてくれなかったんです。でもあの笑顔を作り出すまではかなりの努力を要していたようで、どんな状況でもあの笑顔ができるんです。香川さんの内部構造にしっかりとあるんですよね」と語る。
一方で、夏の炎天下での撮影で、日差しがまぶしいなか、香川が「ヨーイスタート」がかかる直前に太陽をにらんでから本番に臨んだという。佐藤監督はそのことを香川に問うと「わたしが新人のころに先輩の役者に教わったんです。太陽を見て目を焼き殺すことで、まぶしい表情をしないで済むんです」と回答したという。佐藤監督は「内部構造だけではなく、外部構造にもこうした技術を兼ね備えている」と香川に感嘆したという。
また関監督は、撮影最終日に香川から「3人の監督は初めてだったけれど、いいことだらけでした。OKの重みが違う」と声をかけてもらったという。この言葉に関監督は「カットへの反応をしっかりと確かめて次のシーンに向かう姿勢がすごいなと思いました。確かに劇中、時代劇の斬られるシーンを何度かやったのですが、テイクごとにOKが出るまで正確に違う演じ方をされるんです」と香川のプロ意識に脱帽していた。
平瀬監督も「本を書く段階で、宮松という人物をギチギチに決めていたわけではなかった」と明かすと「現場で香川さんと4人で作り上げた」とキャラクター造形でも香川の芝居やアイデアは大きな助けになっていたという。
名優香川がエキストラを演じることも、一つの大きな見どころになっている本作。平瀬監督は「近年、香川さんは“動”のイメージが強かったかと思いますが、この作品では“静”の香川さんが映っています。こんな香川さんを観られるのはこの映画だけだと思います」と作品をアピールしていた。（磯部正和）