賀来賢人、身体を壊して気づいた限界 独立も経て“もの作り”へ高まる意欲
ツッパリ高校生から、エリート官僚、子ども向け番組のキャラクターなど、さまざまな役柄を緩急自在に演じ、実力派俳優と評価の高い賀来賢人。最新作となるアニメーション映画『金の国 水の国』(現在公開中)では、まじめさとともにひょうきんさもある人間味あふれる主人公・ナランバヤルの声を担当し、表現力の高さをうかがわせた。2022年には長年所属していた事務所から独立し、新たな道を歩み始めた賀来。現在はどんな思いでエンターテインメントという仕事に向き合っているのだろうか。
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「自分のやりたいことだけをやろう」
舞台や映像作品で、デフォルメされた役柄から等身大の人物まで、幅広いキャラクターを演じる賀来。その引き出しの多さは製作陣からも高い評価を受けているが、自身は「あまり作品や役柄のバランスなどは考えてはいません」と語る。ここ数年はシンプルに「自分のやりたいことだけをやろう」という基準で仕事に臨んでいるというのだ。こうした考えのきっかけとなったのが、数年前に体調不良に陥ったからだった。
「とにかく忙しすぎて、身体を壊してしまったことがあったんです。精神的にもきつくて、そのときに『限界ってあるんだな』と気づいたんです。家族にも心配されたし、なにか考え方を変えた方がいいんだなと思いました」
そのとき意識したのが、エンターテインメントというジャンルの仕事をしていること。「この仕事は、まずは自分がワクワクしなければ意味がないかな、と。そこから『ワクワクすることしかしない』と決めてしまえば、精神的にも楽になりました」と自分のやりたいことをするという考えにシフトしていったという。
「例えば、役者をいくつまで続けるかなと考えたとき、長く活躍されている方もたくさんいますが、僕は体力にもあまり自信を持っていないので、頭と身体がしっかり動くのは60歳ぐらいかな……と。そう考えたとき、やっぱり本数って限られてきますよね。だったら『これはどうしてもやりたい』と思うものを優先したいという思いが強くなりました」
2022年9月に独立を果たした賀来。「結果的に面白いなと思ったことが続いて、1年に5~6本作品をやってしまうかもしれませんけれどね」と笑うが「常にいまの自分を更新していきたいという思いはあります」と前を向く。
3度目の声優挑戦で得られた感覚
アニメ映画『金の国 水の国』という作品へのチャレンジも「どこかで声のお芝居に苦手意識もあって、もっとうまくやれるようになりたい、しっかり作品に馴染みたいという思いがありました」と参加したモチベーションを明かす。「もちろんプロの声優業界で戦っている方には技術的には叶うわけはないのですが、役者がアニメーションに参加する意味みたいなものを考えたとき、これまでの経験でどこまでキャラクターに息を吹き込むことができるのか……という挑戦をしたかったんです。今回、ちゃんと寄り添えたかなという感覚はありました」と振り返る。
「このマンガがすごい!2017」オンナ編で第1位を獲得した岩本ナオの同名マンガをアニメ映画化した本作。賀来は仲の悪い隣国のおっとり王女・サーラ(声:浜辺美波)と出会い、偽りの“夫役”となるお調子者の建築士・ナランバヤルを演じる。ひょうきんな部分もありつつ、決めるところは決める魅力的なキャラクターだ。
賀来はナランバヤルについて「器用そうに見えてすごく不器用なところが憎めない。しっかりと自分の意見も言えるし、それを行動に移せる。軽い部分もあるけれど、裏には信念も持っていて、熱量もある。一言でいえば、いい男。憧れる存在だなと思ったので、彼の行動に乗っかっていけばいいので、演じていてしっくりきました」と感情移入しやすかったという。
これまで吹き替えを担当した映画『ライオン・キング』(2019)やゲスト声優として参加した『映画 きかんしゃトーマス おいでよ!未来の発明ショー!』(2021)など、声の演技の経験はあったが、「やっぱり声だけで感情を表現するのは、ものすごく難しい」と大きなチャレンジだった。それでも「音響監督の方がとても丁寧にディレクションしてくださったので、途中でつかめた感覚が正直あったんです。それは3回目の声のお芝居でしたが、初めての感覚でした」と収穫も多かったと振り返る。
俳優という枠にとらわれない“もの作り”へ
30代も半ばに差し掛かるが、賀来は「いま、作品を世界に届けられるプラットフォームも増えてきたという意味で、すごくいい時代にいると思うんです」と現状について視線を向けると「とてもワクワクしますよね」と笑顔を見せる。
「だからこそ、世界と同レベルで戦えるような状況にならないといけない。もちろん、同じ土俵に立てるか分かりませんし、いますぐ叶うとも思っていませんが、ちょっとずつ試行錯誤をしながら、張り合いのある時間を過ごしています」
2024年にNetflixシリーズ配信される「忍びの家 House of Ninjas」では企画・原案・主演を務めることも発表されており、「自分から企画を立てて、チャレンジしようという準備もしています」と俳優という枠にとらわれず、広く“もの作り”というジャンルに対してアプローチしているという。「いろいろなことにチャレンジして感じたのは、一つの作品を作ることの大変さ」としみじみ語った。
それゆえに、一つの作品に対する熱量はより強くなっていく。「めちゃくちゃ若いわけでもないし、でもある程度の経験をしてきたいまって、一番行動力がある時期なのかなと思っているです。その意味で、40歳なるまでに、なにか一つでも身になればいいなと思っています。それは演じることだけではなく、完全に作る側に回るかもしれないし、本を書くかもしれないです」
どんな形にしても“もの作り”というキーワードで“ワクワクすること”を「ジャンルも地域も問わず突き詰めていきたい」と未来に思いを馳せていた。(取材・文・撮影:磯部正和)