市川染五郎、「美少年」と言われて本音は?森蘭丸役で初の時代劇映画
木村拓哉が織田信長役で主演を務める映画『レジェンド&バタフライ』(1月27日公開)。同作で信長の側近・森蘭丸役を演じた歌舞伎俳優の市川染五郎(17)が、時代劇映画初出演となった本作の裏側から、「絶世の美少年」と注目されること、表現者としてのこだわりまでを語った。
木村拓哉は初共演ながら身近に感じていた存在
監督を『るろうに剣心』シリーズの大友啓史、脚本を大河ドラマ「どうする家康」の古沢良太が務め、信長と正室・濃姫(綾瀬はるか)の30年に及ぶ軌跡を描く本作。歌舞伎以外の作品への出演経験がまだ少ない染五郎にとって、本作の撮影では初体験のことが多く、共演者も初めての顔ぶればかり。染五郎が演じる森蘭丸は信長の側近という設定のため、主演の木村と多くのシーンを共にしているが、共演は今回が初。しかし、実は以前から身近に感じていた存在だったという。
「木村さんにはスーパースターというイメージもありましたが、父(松本幸四郎)も、祖父(松本白鸚)も、叔母(松たか子)も木村さんとの共演経験があったので、不思議と身近に感じていた方でした。僕がクランクインした日の撮影後、アクションシーンの殺陣の稽古があったのですが、その際に木村さんから“ソメ”と呼ばれた時は、ちょっと感動しました。実は父が木村さんとテレビドラマ『プライド』(2004)で共演した際は父が『(七代目)市川染五郎』でしたので、“ソメ”と呼ばれていたことを何となく知っていたんです。自分はどう呼ばれるのかなと思っていた中、やっぱり“ソメ”と呼んでいただけるんだと(笑)。父からは木村さんについて、すべてに神経を配って作品作りに取り組んでいらっしゃる方だと聞いていましたが、実際にその通りの方でした」
染五郎はアクションシーンの殺陣の稽古の際に、木村から具体的なアドバイスももらったそうで「歌舞伎でも刀を持った殺陣のシーンはありますが、時代劇での殺陣は初めてでした。歌舞伎とはこんなに違うものかと驚きの中で稽古をしていたのですが、木村さんに『刀はこう持った方がいい』『もっと重心を落としたがいい』といった実践的なアドバイスをしていただいたことで、『ここは歌舞伎と一緒だな』と思えるような発見もありました」と振り返る。観客を前にした生の舞台と、カメラの前で監督の演出に沿って演じる映像作品については、「やっぱりお客様が目の前にいないことが一番の違いですし、当然ですが映画館で上映される際は過去に撮影したものになるので、自分の過去の表現を見ていただくというのも、リアルタイムの舞台にはない感覚だと思います」との違いを感じており、自身の出演した映像作品については「今なら『ここはこういう風に演じるな』といった目線で見てしまう」とのこと。
染五郎が演じた森蘭丸は、13歳の頃から信長の身の回りの世話をする小姓として仕えるようになり、最後まで運命を共にした側近中の側近。そんな人物に染五郎は、「常に信長を支えることに全神経を注いだ、すごく頭のキレる人」とのイメージを抱いていた。撮影期間中に蘭丸ゆかりの場所を巡り、学んだ際に「一般的には線の細いイメージを持っている方が多いと思いますが、蘭丸の持っていた刀はすごく大きくて重かったらしいので、実際には筋骨隆々な逞しい人物だったのではないかとも思いました」と、さまざまな想像を膨らませながら演じたようだ。
絶世の美少年と言われて
また、森蘭丸には美少年のイメージも強い。2022年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で演じた源義高も、北条政子(小池栄子)らから「よいお顔立ち」と評される役だった。美しさを求められる役回りを演じることについては、「一般的な役のイメージやキャラクター設定としては理解していますが、美しく居ようといったことは全く意識していません。自分が美しいとももちろん思っていないですし……」と率直な思いを打ち明ける染五郎。しかし、実際のところ端正な顔立ちはもちろん、所作などからにじみ出る気品や色香も含め、その美貌が話題となることも多い。メイクアップアーティストブランド「シュウ ウエムラ(shu uemura)」の日本ブランドアンバサダーに起用されたり、女性ファッション誌の表紙を度々飾るなど、モデルとしても注目を浴びている。
本人としては「歌舞伎で美しい設定の役を勤める際は、どうやったら美しく見えるかということは、化粧などを含め研究します。でも、歌舞伎以外のお仕事で美しく思われたいとは考えていないので、自然に居る姿をそのように感じていただけたのならありがたいなというぐらいの感じです」と、いたって謙虚な姿勢だ。
とはいえ、「やっぱり役者はお客様に夢を見ていただく仕事なので、見た目の表面的な部分の美しさにも、こだわりを持たなければいけないなとも思います」とは考えている。美しさを追求したわけではないが、表現者としての確かなこだわりを持っていることが、結果的に美しく見せている部分もあるのだろう。
「普段はファッションにこだわりませんし、髪もセットしていませんが、仕事として表に出るような時は、メイクもちゃんとして、普段の自分とは全く違う見た目で出たいなという思いはあります。そういったことで自分の中でもオンオフを切り替えられる感覚があるので、表に出る時のビジュアルはこだわっていると思います。いろんな表現者の方の写真なども参考にしつつ、今回はこういうイメージでいこうかなといったことは、毎回考えていますし、それを考えるのは好きですね」
さらに自身が考える「美しい人物」を問うと、歌舞伎以外の分野での表現者として、マイケル・ジャクソン、デヴィッド・ボウイ、沢田研二の名を挙げた。その理由は「ビジュアルにもこだわりを持っていらっしゃる方々で、派手な衣装やメイクなどの作った美しさで着飾っても、内面から滲み出る美しさがあるので決して下品にならない」と染五郎。
その目指す先が楽しみでならないが、今後については「何をするにしても歌舞伎が軸で、1番大事ですが、映像作品もやっていきたい。実写の現代劇や、父も出演していて小さい頃から好きな劇団☆新感線さんの舞台にも挑戦してみたい気持ちがありますね」とも語り、今後のさらなる飛躍を期待させた。(取材・文:天本伸一郎)
ヘアメイク:AKANE スタイリスト:中西ナオ