巨匠ジョン・ウィリアムズ、引退せず「音楽のない日はない」宣言にスピルバーグ歓喜
最新作『フェイブルマンズ』で、ゴールデン・グローブ賞映画部門で作品賞(ドラマ)と監督賞を受賞したスティーヴン・スピルバーグ。授賞式から2日後、スピルバーグと彼のパートナーである映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズが出席する、アメリカン・シネマテーク主催のイベントが、米ロサンゼルスの全米脚本家協会のシアターで開かれ、2人が約50年に渡るコラボレーションについて語った。(吉川優子/細谷佳史:Yuko Yoshikawa / Yoshifumi Hosoya)
『JAWS/ジョーズ』や『未知との遭遇』『E.T.』『インディ・ジョーンズ』シリーズ、『ジュラシック・パーク』シリーズに『シンドラーのリスト』『プライベート・ライアン』など、多岐にわたるスピルバーグ作品にスコアを提供してきたウィリアムズ。彼らのコラボレーションが始まったのは、スピルバーグの劇場用映画デビュー作となった『続・激突!/カージャック』(1974)だった。ウィリアムズは、レストランでスピルバーグと初対面した日を「テーブルに座っている人が、17歳か18歳の少年のように見えて、彼はきっと、スピルバーグ氏の息子なんだと思ったんだ」と笑顔で振り返る。
「彼は見慣れないワインリストに困惑している感じだったけど、話をしたらすぐに、ものすごく聡明で、僕よりも映画音楽に詳しいことに気が付いた。彼は、僕がすっかり忘れてしまっていた『華麗なる週末』のテーマ曲(ウィリアムズが作曲)を全て口ずさみ、映画音楽をこよなく愛する、学者のようだった。さらに彼の映画を観たら、見事に編集されていて、特にアクションシーンが素晴らしかった。それですぐに引き受けたんだよ」。
その後の2人は、映画史に残る名作を次々と発表することになる。スピルバーグとの出会いは、ウィリアムズにとっても運命的なものであったことは言うまでもない。ウィリアムズは「男性が“ミューズ”になれるのかわからないけど、あっという間に過ぎ去っていったこの年月において、彼は間違いなく、ずっと僕の“ミューズ”だったよ」とスピルバーグにほほ笑む。
およそ50年もの間、一緒に仕事をすることができたのは、エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトやフランツ・ワックスマン、マックス・スタイナーといった、過去の偉大な作曲家たちへの愛を、互いに共有していたことも大きかったようだ。「僕が音楽でやりたかったことの一つが、コルンゴルトのように素晴らしい作曲をすることだったと思う。映画に対する愛や、僕たち以前に活躍した(偉大な)人々と同じくらい良いものになりたいという願いにおいて、僕とスティーヴンは同じ方向を見ていたんだ」とウィリアムズは語る。
続いてスピルバーグが「僕は常に前進するために過去を振り返り、自分が観て育った映画に、作曲家たちがもたらしたものを高く評価してきた。ジョン、あなたはその伝統を21世紀に完全に引き継いでくれたんだよ」とウィリアムズを称賛すると、会場から大きな拍手が巻き起こる。スピルバーグは、この50年「意見が食い違うことは一度もなかった」とも語り、映画作りにおいて、2人がまさにソウルメイトであることを強く印象付けた。
長年仕事をしていると、決まった作業手順が出来上がってくるものだが、それについてスピルバーグが説明する場面も。「僕がいつも最初にやることは、ジョンに脚本を渡すことだよ。でも80%、ジョンは読まないことを好む(笑)。もちろん彼はストーリーをよく理解している。でもジョンは、映画を初めて観たときに基づいた印象を好むのだと思う。映画を初めて観た時、彼はどういう音になるかを夢見たり、考えたりし始めるんだ。僕はストーリーを語り、ジョンはそのストーリーを再び音楽で語る」。
そのほかにも、映画のクリップを見ながら興味深い裏話を語った2人。特に、『未知との遭遇』(1977)で、人類と宇宙人が遭遇した際、5つの音でやりとりをするシーンのエピソードは観客に受けていた。
「(宇宙人が)出てきたとき、いきなりテレパシーで話すのだろうか? 手話でコミュニケーションするのだろうか? 具体的に(彼らは)どうやって会話をするんだろう? と考えた」というスピルバーグは、『フェイブルマンズ』にも出てくる家族のエピソードに触れた。「母はアリゾナでコンサートピアニストをしていて、父は電気技師で、数学が大好きだった。そして父はいつも僕に、脳の芸術的側面は音楽と呼べるもので、脳の音楽に相当するもう一方の側面は数学だと、数学と作曲の類似性を語っていた。そこから僕は、宇宙船と初めてやりとりする際に音を真似ることで、コミュニケーションを交わす方法があるのではないかと思ったんだ。でもその音は、ジョニーが考え出したものだけどね」。
イベントの最後、来月で91歳を迎えるウィリアムズは、今年公開予定の『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』が最後の作品になるのか訊ねられると、「スティーヴンは監督であり、プロデューサーであり、スタジオの責任者で、脚本家で、慈善家で、教育者でもある。一つ言えることは、彼は『ノー』と言える人ではないということだよ。彼の父親は、102歳でも働いていた(実際は99歳か100歳だという)。それは、スティーヴンが僕に期待していることなんだ。だからまだ10年ある。音楽から引退することはできない。それは呼吸と同じだ。それが僕の人生なんだ。音楽のない日はないよ」とコメント。ウィリアムズに引退の意志がないことを初めて聞いたスピルバーグは、本当に驚いた様子で「次に一体何をやるか、仕事に取り掛からないといけないね」と語った。
さらに、50年に渡る2人の関係の総括を求められたスピルバーグは、「彼が引退しないことを知ったばかりだから、僕もしないよ。今夜、君が言ったことが本当に信じられない。素晴らしいね。こう要約しよう。僕たち2人が選んだこの芸術の世界において、彼は僕の人生の中で最も信頼できる兄であり、協力者だった。それは、僕がどれだけあなたを愛しているかを伝えている言葉だと思う」と答えて、映画ファンにとって夢のようなイベントを締め括った。