【レビュー】『レジェンド&バタフライ』木村拓哉と綾瀬はるかを愛でる!斬新な演出も
歴史にその名を残す武将、織田信長の人生をまったく新しいスタイルで描いた映画『レジェンド&バタフライ』(公開中)。日本映画としては異例の製作費をつぎ込み、木村拓哉と綾瀬はるかの豪華共演が実現と、あらゆる要素が目を引くが、その見どころはどんな部分にあるのだろう。(文・斉藤博昭)
織田信長といえば、戦国時代、さまざまな戦いで奇襲作戦なども成功させ、天下を取ったことで有名。そんな信長の映画と聞けば、激しい戦闘も前面に押し出したアクション時代劇を想像させる。しかし本作はそんな予想を軽々と超えるかのように、時代劇の新たな地平を切り開くことにチャレンジした。
タイトルにあるとおり、これはレジェンドとバタフライの物語。レジェンドは信長。そしてバタフライは「帰蝶」とも呼ばれた濃姫、つまり信長の妻のこと。主人公は信長ながら、濃姫も同じくらいの出番があり、要するに2人のドラマなのである。政略結婚で結ばれる冒頭から、信長がいくつもの戦いを経て成り上がっていく展開で、2人の関係から軸がブレることはない。斎藤道三(濃姫の父)、木下藤吉郎(のちの羽柴秀吉)、明智光秀、徳川家康、森蘭丸など歴史上でおなじみの面々も当然のごとく登場するが、圧倒的に信長と濃姫の出番が多い。その意味でこれは、演じた俳優、木村と綾瀬を愛でる作品でもあるのだ。
物語は信長が16歳のときから始まるので、木村による10代の表現が見もの。“大うつけ者”、つまり軽々しく、常識はずれと周囲から見られていた16歳の信長を、木村は持ち前の軽やかな演技でアプローチ。近年の彼を見慣れた人には、新鮮で懐かしく感じられるだろう。そこから武将として、また一人の男としての成長曲線が木村の変化とともに伝えられる。信長が本能寺の変で亡くなったのが、49歳(諸説あり)の時。そして木村が現在、50歳。彼がジャニーズ事務所に入ったのが15歳であり、本作での信長の人生は、偶然にも木村の活動期間と一致する。SMAPのメンバーとしてアイドル的存在になった時代の無鉄砲さと若々しさ、国民的俳優となるプロセスでの多くの挑戦、そして唯一無二の揺るぎない存在感を手にした現在……と、信長の人生に木村のそれが重なるのは、ファンにとって何よりの喜びだろう。その意味で本作は純然たるスター映画である。
一方の綾瀬も、木村に一歩も引けを取らない堂々たる演技を全編でみせてくれる。初めての出会いは、信長16歳、濃姫15歳のとき。“マムシの娘”と呼ばれた濃姫は、じつは3度目の結婚だった。しかも信長の暗殺を目論んでいたりして、能天気な夫に対して上から目線。鷹狩りなどの能力も信長より優れるなど、濃姫は芯の強いヒロインとして描かれ、そこに綾瀬の魅力が存分に発揮される。
木村と綾瀬の2ショットだけで、文字どおり「絵になる」安心感が保たれ、要所に挟まれるコミカルなやりとりも、2人の個性を知っていれば楽しく受け止められるはず。
物語としては信長と濃姫の関係が変化していく過程が、観ているこちらのテンションを高める。それこそが『レジェンド&バタフライ』で最もドラマチックな面だろう。2人の関係性が大きく変わる瞬間が、意外なほど衝撃的なアクションとともに盛り込まれる。監督は『るろうに剣心』シリーズなどでアクション演出に定評のある大友啓史だが、本作では、信長と濃姫の関係性に沿ったかたちで戦いの見せ場を用意。従来のアクション時代劇とは一線を画している。ターニングポイントとなる戦いでも、実地での合戦そのものより、ひるむ信長を濃姫が奮い立たせ、共に戦術を練るシーンを濃密に描くなど、大胆かつ斬新な演出に驚かされる。
もちろん大スケールの映像も『レジェンド&バタフライ』の大きな見どころ。京都の仁和寺など各地の世界遺産、重要文化財、国宝で、かつてない大規模な撮影を敢行。信長が濃姫を迎え入れた那古野城や、信長が天守閣を築いた安土城など、キーポイントとなる場所は豪華なオープンセットで再現された。日本映画の歴史を振り返っても、ここまで贅沢な映像美で圧倒する作品は珍しく、美術や衣装を眺めるだけでも大スクリーンで体験する価値がある。
そしてこの『レジェンド&バタフライ』の予告編を観て、信長の映画“らしからぬ”映像に気づいた人もいるかもしれない。信長と濃姫の運命を共にしながら、そんな予想外のシーンに込められた意味がわかったとき、深い感動に包まれることは間違いない。(文・斉藤博昭)