『エゴイスト』鈴木亮平&宮沢氷魚起用の理由
鈴木亮平&宮沢氷魚共演のR15+映画『エゴイスト』(公開中)のメガホンをとった松永大司監督が9日に行われたシネマトゥデイの動画配信番組「シネマトゥデイ・ライブ」(毎週木曜夜7:30~)に出演し、鈴木と宮沢を起用したいきさつや撮影の裏側を語った。
エッセイスト、高山真の自伝的小説を映画『ピュ~ぴる』『トイレのピエタ』などの松永大司監督が映画化する本作。鈴木が14歳で母を失い、田舎町でゲイである自分を押し殺しながら思春期を過ごした過去を持つファッション誌編集者・浩輔に、宮沢がその恋人で、シングルマザーである母(阿川佐和子)を支えながら暮らすパーソナルトレーナーの龍太にふんする。
映画そのものに対してだけでなく、LGBTQの観点からも真摯な感想が寄せられているという本作。松永監督は「ちょっと見てみようという方たちがどう感じるのか気になる」と言い、厳しい意見も目をそらさず受けとめようとする姿勢だ。鈴木と宮沢がカップルを演じることでも話題の本作だが、キャスティングはプロデューサーの明石真弓から提案があった時には迷いがあったと打ち明ける。
「明石さんから鈴木亮平さんと宮沢氷魚さんの組み合わせはどうでしょうと提案があったのですが、初めは出来過ぎじゃないか、2人だとちょっとカッコ良すぎはしないかと2週間ぐらい考えました。もちろん、お二人の演技、存在としての魅力は絶対にあると思っていたのですが、あまりかけ離れた架空の話にしたくない思いがあったからです。ざらざらとした手触りのある、人ごとに思えない作品にしたかった」
その後、2019年に東京国際映画祭で偶然、鈴木とすれ違った際「どうしても読んでもらいたいものがある」とシナリオを渡したという。撮影のスタイルを1シーン1カットのドキュメンタリータッチにして二人を捉えていけば虚構の話にはならないかもしれない。鈴木と宮沢であればできるのではないかと思い至り、オファーした。
主演の鈴木とは、松永が映画監督になる前からの古い知り合いだといい、念願かなってのタッグとなった。「お互いの夢を語り合ったことがあって、いつか映画を一緒に撮りたいねと話していました。撮影初日に段取りを伝えた時に鈴木さんが『あの時話したこと覚えています? 俺たちやりましたね』と言ってくださって。そのときはこれから始まる撮影を思うとセンチメンタルな気分にはなれませんでしたが、鈴木さんも宮沢さんも覚悟をもってトライしてくれているというのを肌で感じていましたし、だからこそ、自分も妥協できないとも思いました」
「一番怖いのが知った気になっていること」と、LGBTQ+インクルーシヴディレクターのミヤタ廉の協力を得て、自分が納得するまでリサーチや取材を重ねて臨んだ松永監督。撮影で重要だったのは、芝居の土台作り。テストは行わずリハーサルを約1週間ほどかけて入念に行った。「台本のシーンではなく、それよりも前の時間を作ったりしました。例えば浩輔や龍太が高校生の時、中学生の時。キャストそれぞれに役割を書いたカードを渡してエチュード(即興芝居)を行う。セリフ、台本にある2人の記憶を埋めていく作業をするんです。そのことで、お互いの実際のリアクションを思い浮かべられるようになりますし、記憶が会話を作っていくと思うから」
また、タイトルを冒頭と最後に2回挿入した理由については「『エゴイスト』という言葉は一見ネガティブ。浩輔のエゴ、愛情が自分のためなのか、相手のためなのかというのがわからないけど、最終的な彼の行いというのはエゴかもしれないけど誰かを幸せにしているんじゃないかというふうに思ってもらえるんじゃないか。映画を観る前と観た後では意味がちょっと変わっているかもしれない。そういう思いを込めました」(編集部・石井百合子)