溝端淳平、苦しんだ20代 「どうする家康」今川氏真に重ねる
松本潤主演の大河ドラマ「どうする家康」(毎週日曜、NHK総合夜8時~ほか)で駿河の戦国大名・今川義元の息子・氏真を演じる溝端淳平。回を重ねるにつれ“ヒール”として注目され出すと「氏真闇落ち」のワードがネット上であふれた。大河ドラマ初出演となった本作での反響について溝端は「20代に苦しみつつも、蜷川幸雄さん、吉田鋼太郎さんに食らいついていってよかったなというような感覚はありますね」と語り、20代の自身とシンクロする部分があるという氏真役を振り返った。
戦国乱世に終止符を打ち、江戸幕府初代征夷大将軍となった徳川家康の軌跡を追う本作。『コンフィデンスマンJP』シリーズや映画『レジェンド&バタフライ』などの古沢良太が脚本を務め、次々に襲いかかる試練に「どうする?」と決断を迫られ、迷い葛藤しながら成長していく家康を等身大で描く。
出演が決まったら松本潤に電話
溝端にとって本作が初の大河ドラマ出演。主演の松本とは2014年のドラマ「失恋ショコラティエ」以来、交流が続いていたといい、それぞれ蜷川幸雄の舞台に出演した共通点もあり気心が知れた仲。溝端は、出演が決定した時の心境をこう語る。
「小栗旬くんの『鎌倉殿の13人』、その後に松本潤くんの『どうする家康』。お世話になっている先輩方が大河の主演を務める。嬉しくなって松本くんに“おめでとうございます”と連絡をしました。その時に、僕この作品に携わることができればと話していたのですが、のちに本当に局から出演オファーをいただいて。躊躇しながらも“本当に決まりました。よろしくお願いします!”と松本くんに電話をしたら普段はあまり言葉に出さない方なんですが、喜んでくださっているんだなというのがひしひしと伝わってきたのでうれしかったです」
溝端演じる氏真は、今川に人質として預けられた家康と兄弟のように育った仲。しかし、成長すると「天に選ばれた」家康は将としての才覚を発揮し、父・義元(野村萬斎)は息子よりも家康に目をかけるように。思いを寄せていた家臣・関口氏純の娘・瀬名(有村架純)も家康の妻となり、さらには家康が父を討った尾張の織田信長(岡田准一)に寝返ることとなり、氏真は家康に憎悪を募らせていく。
実力が追い付かず苦しんだ20代
そんな家康と氏真の関係について、溝端は「望んではいないのに天に選ばれ、どんどん出世していく家康と、望んでいるけれども才能と時代に見放されていく氏真は対照的。第12回『氏真』(3月26日放送)は、その決着がつく回ともいえます。家康とは単にライバルということではなく、幼少期から兄弟のように育って楽しい思い出もある。戦国の世でなければきっと仲良く手を取り合って同じ目標に向かって邁進できたのに、と思います」と解釈を述べる。
第6回「続・瀬名奪還作戦」では、氏真が自身を裏切った家康への見せしめとして、今川に残った瀬名と家族を根絶やしにする決意をする。家臣も離れていき、孤立していく氏真に、溝端は20代の自身を重ねる。溝端は2006年にジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリに輝き、翌2007年にドラマ「生徒諸君!」で俳優デビュー。2008年にはドラマ「赤い糸」で南沢奈央と共にダブル主演を務め、映画版は大ヒットを記録。デビュー後早々から順調だったが、溝端自身は実力が追い付いていないことに悩んでいたという。
「氏真はたぶん、すごく繊細で弱い人間です。自分がストイックになればなるほど周りに人がいなくなっていき、人を信じられなくなる。人徳も才能もなかったというのが氏真ですが、僕にも共通する部分があります。ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでデビューして、最初はアイドル的な人気が出てお仕事をたくさんいただけましたが、実力が追い付いていないことや、他にも沢山の実力のある方々がいることも実感していました。そうするうちに、どんどん抜かれていくような感覚になり、自分には才能がない、身の丈に合ったことができていないという葛藤を20代の頃にすごく感じていました。そういったところで氏真に共感できる部分はありましたね」
転機となった蜷川幸雄との出会い
「見えないものと戦っていた」という20代。そんな溝端にとって転機となったのが、演出家・蜷川幸雄との出会いだった。
「自分のどこがダメなのかわからず、どう頑張ればいいのかともがいていたなかで、蜷川さんが正面切って“お前はへたくそだ。才能がない”とはっきり言ってくださって、何か吹っ切れたんです。じゃあ、才能がないなりに頑張ればいいんだ、ちょっとずつ“できる”を積み重ねていけばいいんだと。自分にあまり期待しすぎない方がいいという感覚になって、それが第12回の氏真に近かったんです。かつて、父に『そなたに将としての才はない』と言われたことを思い出す。でも才能がないからといってダメなわけじゃないというのが、これまでの俳優人生の中での答えです。才能がある人には、あるなりの悩みがあるんだろうし。今でも反省点ばかりですけど大河ドラマに出させていただいてこんなにも反響が大きくて、今すごく幸せです。結果的に人に恵まれていたと思いますし、蜷川さんだけではなく、吉田鋼太郎さん、横田栄司さん、藤原竜也さん、温かく見守りつつ、叱咤激励してくださる先輩たちがいてくれたおかげで乗り越えられた。よく見ると周りに助けてくれる人はいるし、見てくれている人はいるんだなと思います」
その後、2015年の蜷川の舞台「ヴェローナの二紳士」では主演を務めた溝端。デビューから16年を経てつかんだ大河ドラマ出演では、「泥臭く生きてきた」キャリアが実を結んだことを実感しているという。「僕はあまのじゃくなので、“初大河でどれだけできんの溝端?”とプレッシャーをかけられる方が俄然燃えるタイプ。逆境の方が燃えます(笑)。絶対にいい役にしてやるぞという気概はありました」
嫉妬やコンプレックスに追い詰められることは氏真に限らず、万人に置き換えられるが、溝端はそれを乗り越えるにはどんなことが必要だと感じているのか。
「志田未来さん演じる(氏真の妻)糸が“もう十分でしょう”と言ったように、エリートでいなきゃいけないとか、しょい込み過ぎない方がいいんじゃないかと。僕は“お前なんてダメだ、まだまだだ”と言ってくれる人がそばにいる方がありがたいです。これまでどれぐらい実績があろうが、来年、5年後、10年後、どうなっているのかは誰もわからない。今からどうなるのかということの方が大事だと思っています」
3月31日から4月2日にかけて開催される「静岡まつり」では、1日の花見行列にスペシャルゲストの溝端が今川氏真役で登場する。「今川領に行かせていただくのが楽しみ」と声を弾ませた。(編集部・石井百合子)