フランス在住約10年!気鋭の監督・平井敦士『ゆ』がカンヌ監督週間で上映
第76回カンヌ国際映画祭
今年の第76回カンヌ国際映画祭では、コンペティション部門に選出された是枝裕和監督作『怪物』と役所広司主演作『パーフェクト・デイズ(原題) / Perfect Days』に加え、北野武監督作『首』(カンヌ・プレミア)、光石研主演作『逃げきれた夢』(ACID部門)が上映されるなど日本映画が多く並んだが、もう一つ注目作がある。カンヌ「監督週間」で上映された、気鋭の監督・平井敦士が故郷・富山の銭湯で取り上げた21分の短編映画『ゆ』だ。
フランスの監督協会が運営し、将来有望と評価された優れた映像作家を1968年より輩出してきた「監督週間」。今年のカンヌコンペティション部門の審査員長で、『逆転のトライアングル』『ザ・スクエア 思いやりの聖域』で2度のパルムドールに輝いたリューベン・オストルンドも、「監督週間」から飛躍を遂げていった監督の一人だ。
1989年に富山県生まれた平井監督は、東京の映像専門学校を卒業して2012年に渡仏。パリの映画学校(ESEC)で学んだ後、映画監督ダミアン・マニヴェルに師事し、助監督として多くの撮影現場に参加し映像制作を学んできた。地元・富山市で撮影した短編映画『フレネルの光』は第73回スイス・ロカルノ国際映画祭のインターナショナルコンペティション部門に選出されたほか、アジア最大級の国際短編映画祭「SSFF&ASIA 2021」ではジャパン部門グランプリ、東京都知事賞を受賞した。
それに続く短編2作目『ゆ』で、早くもカンヌ映画祭での上映を果たすことに。平井監督は銭湯を舞台にした同作について「日本の皆さんにとってはなじみ深い文化だと思うのですが、海外の方にとっては未知の珍しいもの」と観客の反応を楽しみにしていると語ると、「カンヌに行くことは夢のようなものでしたが、こんなに早く自分の映画で来ることができるなんて」と快挙を喜んだ。
今年から「監督週間」のアーティスティック・ディレクターに就任したジュリアン・レジ氏は、「フランスではここ数年、日本文化の特定の側面を描いた日本映画がとても成功しています。何が伝統的な日本文化を生き続させているのか、深く理解したいという関心があるからです。上映時間が限られた短編映画でそうすることはより難しいですが、『ゆ』はフランスで成功すると思います」と自信をのぞかせた。
『ゆ』が描くのは、年末最後の日、ある忘れ物を取りに銭湯にやってきた男が、古いチケットを見つけて一風呂浴びることにする姿だ。平井監督の繊細な演出によって、観客は蒸気にくもる風呂場で交わされる地元の人々の会話を漏れ聞く中で男と共に内省の旅をし、彼がそもそも銭湯に来た理由を知ることになる。
主演を務めたのは、橋爪功が代表を務める演劇集団・円に所属している俳優・吉澤宙彦(おきひこ)。普段は大学で清掃のバイトをしており、上司にだけ知らせてカンヌ入りしたという。映画に出て、しかも主演で、さらにその作品がカンヌで上映されることになるなど「夢にも思わなかった」といい、「毎日“辞めよう”と思うし、先のことを考えたら気が狂いそうになる。それを20年間やってきました。夢は持ち続けることが大事で、ダメでもそれでいいのだと思います。役者は誰でもなれますが、難しいのは続けられるかどうか。続けても何も起こらないかもしれない。いまだに自分のその中の一人です。ただそれでもこういうところにいられるわけで、もし苦しんでいる人がいるなら、励みになれたらうれしいです」と語っていた。(編集部・市川遥)
第76回カンヌ国際映画祭は現地時間27日まで開催