「ビーストウォーズ」声優無法地帯、誕生の裏に音響監督の後悔 岩浪美和が語る26年前の真実
1997年から1998年にかけてテレビ東京系で放送されたアニメ「ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー」。声優陣がキャラクターそっちのけで強烈なアドリブを連発したことから、“声優無法地帯”アニメとして、今日まで語り継がれている。放送から26年、伝説の吹替版を演出した音響監督・岩浪美和がインタビューに応じ、声優無法地帯が誕生した本当の理由を当時のエピソードを交えて明かした。
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「ビーストウォーズ」は、動物や昆虫に変形するトランスフォーマーたちが、強力な動力源・エネルゴンを巡り、サイバトロン(正義)とデストロン(悪)に分かれて激闘を繰り広げた3DCGアニメーション。岩浪が監督・脚色を担当した吹替版では、ストーリーには全く関係のないアドリブの応酬が繰り広げられ、後に制作された続編では、総司令官コンボイの名前を逆さに呼んだことから派生した「イボンコペッタンコ」といった、後世に語り継がれるパワーワードが次々と誕生した。
知られざる“声優無法地帯”誕生の秘密
声優無法地帯と聞けば「声優たちがひたすらふざけ倒している」イメージを抱くかもしれないが、岩浪は「かなり重たい問題がありました。当時はふざけるために必死だったんです」と打ち明ける。誕生のきっかけは「ビーストウォーズ」放送開始の約5年前、同じテレビ東京系で放送された「ミュータント・タートルズ」(1993~1995)だった。
「僕が担当していた『ミュータント・タートルズ』は、正直あまり期待されてなかったんです。特に注文もなかったので、好き勝手やらせていただいた結果、人気が出てオンエアが2年ほど続いて、おもちゃもたくさん売れて成功しました」
「タートルズ」で成功した岩浪だが、その後の作品である後悔を抱えることに。「とあるアニメ作品の吹替を担当したのですが、戦うことの苦しみがメインテーマで、そのまま放送してもウケないだろうと思ったんです。アレンジが必要だといろいろ提案したのですが、代理店さんなどから『オリジナル通り格好よくやってくれ』とダメ出しされて……。『それではヒットしない』と返したのですが覆らず、私自身が妥協してしまったんです。蓋を開けてみたら人気が出ず、妥協したことをすごく後悔しました」
激怒されても妥協しない 決死の覚悟で挑んだ「ビーストウォーズ」
岩浪には常に「大勢の人たちに愛される作品を作りたい」という信念があった。作品がヒットせず「次は絶対妥協したくない」気持ちが強かった岩浪のところに舞い込んできたのが、「ビーストウォーズ」音響監督のオファーだった。
「『ビーストウォーズ』の映像を最初に観た時、すごく画期的だと思った一方、やはりストーリーは暗いし、世界観も異質で、これを未就学児に愛してもらうためには、徹底的にキャラクターを強調しようと思いました」と岩浪は振り返る。そこで考えたのは、話芸に優れた一流声優を起用した吹替版の制作だった。
「今でいう、サッカーの日本代表みたいな、話芸に優れた人たちを揃えようと思っていたんです。子供たちや視聴者の皆さんが好きになるのはキャラクターですし、『ビーストウォーズ』では子供たちにおもちゃを売らなければいけないというプライオリティーがあったので、圧倒的にキャラクターを発展させる必要がありました。自分の中でのA代表として、今の時代に話芸という意味で優れてる人たちは誰なんだろうと考え、一人ずつキャラクターに当てはめていきながら、キャスティングした記憶があります」
総司令官コンボイ役に子安武人、宿敵メガトロン役に千葉繁を起用し、アドリブ満載で挑む吹替版。「ぶっちゃけると、(スポンサーと)すごく揉めました」と岩浪は明かす。「第1話のアフレコ数日前、台本を見たタカラ(現:タカラトミー)さんに呼び出されて、『何をするつもりだ』と本社で大激怒されました。私は約3時間、なぜこのような形に至ったのかをプレゼンして、『おもちゃは売ります。俺が責任を取ります』と理解を求めました。『こうしないとダメなんです。おもちゃが売れません。だから信じてください』と説得しなんとか了承していただきました。今だから話せますが、最初の数話のアフレコは本当にコントロールルームがピリついていました(笑)」
本気で怒られた「イボンコペッタンコ」
岩浪が不退転の覚悟で挑んだ「ビーストウォーズ」は大ヒットし、関連玩具は爆売れ。クリスマスシーズンには、デパートの商品棚から「ビーストウォーズ」のフィギュアが消えた。「あんなに売れると思っていなかったので、生産も間に合わなかったそうです。おもちゃが売れ出してからは、アフレコも和やかな雰囲気でできるようになりました」
また、チータスの語尾に「じゃん」、ライノックスの口癖に「だな」など各キャラクターの特徴付けも功を奏した。「公園とかで、男の子が走り回って『ビーストウォーズ』ごっこをしている姿を見かけたこともありました。『そうじゃん』『打つべし』とセリフを真似していて、子供たちにも作品がきちんと届いているんだと実感していました」
岩浪はその後、1作目の続編「超生命体トランスフォーマー ビーストウォーズ メタルス」(1999)や「超生命体トランスフォーマー ビーストウォーズ リターンズ」(1999~2001)でも日本語版監督を担当。「リターンズ」はモバイル放送向け作品だったため、アドリブも過激さを増していった。
「子供たちが見るような地上波ではなかったので。プロデューサーさんに『過激にやってほしい』と言われました。実は、それが結構辛かったんです。もともと子供たちに愛してもらうための施策でしたし、台本を作るのもものすごく手間がかかります。まあ最終的は開き直ってやりましたけど(笑)。やると決めたら全力でやりましたよ、『イボンコペッタンコ』だけはタカラさんに本気で怒られましたけど(笑)。でもずいぶん時間がたってもあれを皆さんがよく話題にしてくださって、良かったんだか悪かったんだか(笑)」
26年前の自分へ「よく頑張ったな!」
「ビーストウォーズ」放送から26年たった2023年、実写映画シリーズ最新作『トランスフォーマー/ビースト覚醒』にビースト戦士たちが満を持して参戦。子安(オプティマスプライマル役)や高木渉(チーター役)ら当時の声優が吹替版に参加するなど、「ビーストウォーズ」人気が再燃している。
『ビースト覚醒』でも音響監督に就任し、当時の声優陣とも再会した岩浪。ファンの熱狂ぶりから、改めて「ビーストウォーズ」人気の高さを実感していた。「いまだに四半世紀前のアニメを覚えてくださっている方がたくさんいることはすごく嬉しいですし、『ビースト覚醒』の特報が公開された時も、『ビーストウォーズ』を楽しんでいたみなさんが『帰って来たんだ!』と盛り上げてくださって、本当に光栄なことです。『26年前の俺、よく頑張ったな!』と自分自身を褒めてあげたいです(笑)」(取材・文:編集部・倉本拓弥)
映画『トランスフォーマー/ビースト覚醒』は8月4日全国公開
アニメ「ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー アゲイン」はテレビ東京系列6局ネットにて毎週日曜朝9時15分~放送中