『マイ・エレメント』美しきエレメント・シティはこうして生まれた！

　火の女の子エンバーと水の青年ウェイドという正反対の二人の恋を描いたディズニー＆ピクサー映画『マイ・エレメント』は、舞台となるエレメント・シティの美しさも見どころの一つだ。プロダクションデザイナーのドン・シャンクらがピクサー・アニメーション・スタジオで取材に応じ、火、水、土、風のエレメント（元素）たちが暮らす街をどのように作り上げていったのかを明かした。

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　エレメント・シティはもともと水たちが興した街で、土、風、火という他のエレメントたちを受け入れてきたという設定。そのため、この街には四つの文化があり、時にそれらが混じり合うこともある。リサーチでは、ニューヨーク、アムステルダムなど傍に水がある街を見ていったというシャンク。「ニューヨークは監督のピーター・ソーンが育ったところでもあるので、いろんな意味でエレメント・シティの基本になっています。ウェイドのお母さんは裕福なので、ニューヨークのアッパーイーストサイドのようなところに住んでいるはずだ、といったふうに」と振り返る。

　ただし違いは、ニューヨークにやって来る移民はどんな家にも住めるが、エレメントたちの場合はそうもいかないという点だ。「エレメントの場合、水のためのアパートは火には向いておらず、逆もまた然りなので、僕たちはそれぞれのエレメントにとって住みやすい建物を考えました。しかし、結局のところ、デザインというのはストーリーを語るためにやるもの。映画でそれらを細々見せることはあまりできないんですけどね。それで僕らは、遠くから見て『あれは水の建物だ』と思えるようにしつつ、他のことを入れられる余地も残すようにしました。水はブルー、風はピンクとパープルといったようにそれぞれのエレメントに主な色を決め、遠くから見ると水の建物に見えても、近づくといろいろな建物があって、彼らが一緒に住んでいることがわかるようにしたのです」

　なかでもシャンクたちが一番時間を費やしたのは、エンバーをはじめとした火たちが暮らす町ファイアタウンだ。一目でここがファイアタウンだと理解できるのは、町のデザインに暖炉、ランプ、ポット、レンガ、セラミックなど火に関するモチーフが多数取り入れられているからだろう。「ファイアタウンの道もいい例で、あれは燃えた樹皮にインスピレーションを受けています。小さな角形のものが地面にあって、丸石で舗装された道のような雰囲気です。僕たちは道を木のように見せたくなかったので、これらの道は、木ではないけれども丸石の歩道でもなく、その両方の要素がある感じにしています」

　「この町のために、僕たちは多くのアイデアを考え出しました。ところどころにイースターエッグや、ビジュアルの楽しいジョークがありますよ。場所の名前が面白かったりとかね。なので、何回か観てもらえれば、前には気付かなかったことに気付くと思います。1回で全部に気付くのは難しいでしょう」

　そんなシャンクのお気に入りは、エンバーとウェイドが夜、熱気球に乗るシーンだ。「すごく美しくてロマンチックで、あのシーンはエレメント・シティを最も美しく見せていると思います。夜に、上空から、輝くファイアタウンを見下ろす……。ビジュアル的に、あれは本当に美しいと思います」と満足げに語った。

　このように細部まで作り込まれたエレメント・シティだが、ディテールはあえて影で潰したりしているとライティングテクニカルディレクターのオクムラ・ユウコは明かす。「ライティングはただ“照明”というだけでなく、“観客にストーリー上どこを観てほしいか”に着目しています。影を使い、観なくていい場所はできるだけディテールを潰すんです。こうして作り込むだけ自然になるのが面白いところで、自然になれば観客が感情移入できるようになるんです」

　また、エレメント（元素）たちが暮らす街ということで、ライティングチームは幾何学模様をさまざまなところに忍ばせたのだという。オクムラは「いろんなところに、影とか光の形で六角形などの幾何学模様で入れていて、それがいろんなショットにちりばめられています。裁量は個人のセンスに任されていたんです。1回観ただけじゃわからないと思いますが、すごく時間をかけて入れました」とこだわりのライティングの秘密を明かしていた。（編集部・市川遥）

映画『マイ・エレメント』は公開中