「どうする家康」ムロ秀吉は何が凄いのか?演出統括・加藤拓「初登場からすでに怖い」
松本潤主演の大河ドラマ「どうする家康」(毎週日曜、NHK総合夜8時~ほか)の演出統括を務める加藤拓が、本作でムロツヨシが演じる豊臣秀吉の魅力を語った。織田信長の草履持ちに始まり大出世を遂げ、やがて家康のライバルとなる秀吉。加藤監督は「ムロさんはしゃべり方一つ、動き一つをとっても、綿密に計算して臨まれていて、その発想力が人と全然違うというか、技が凄い」と話す(※ネタバレあり。第32回までの詳細に触れています)。
『コンフィデンスマンJP』シリーズなどの人気脚本家・古沢良太が、徳川家康の生涯をユーモアを交えて等身大に描く本作。ムロ演じる秀吉は「戦国乱世を最も楽しんだ男」として描かれる。織田信長(岡田准一)の家臣だったころは腰が低く、道化に徹していた秀吉だが、信長の死後、徐々に頭角を現す。目にも留まらぬ速さで信長を討った明智光秀(酒向芳)の首を取り、信長の跡継ぎを決める「清須会議」ではその武功をアピールすることで自身の力を強めることに成功。かつて三河を追放され各地を放浪してきた家康の家臣・本多正信(松山ケンイチ)いわく、秀吉は民・百姓に絶大な人気がある。人たらしで調略にも長けた頭のキレる人物だ。
加藤監督はムロが表現した秀吉の魅力について、手首に巻き付けた布を用いた表現を例に挙げる。「信長の死後、道化の側面を抜いた状態が出てくるんですけど、突然というわけではなく、初登場シーンから“実はどこか怖い”“したたかな人物”だっていうことを計算上やられている。声のトーン、しゃべるスピード、ちょっとした仕草。仕草というのは、信長に“猿”と呼ばれた所以にもかかわってくるんですけど、秀吉は初登場の場面からずっと手首に布を巻いているんです。それは人物デザイン監修の柘植伊佐夫さんが、秀吉がもともと山にいた人という設定で、どこから湧いてきたのかわからないところから着想を得て取り入れたものです。秀吉が方々を渡り歩いたであろう感じを表わすための表現と聞いて、ムロさんは“この布は猿という表現に使えますよね”と。なので、ムロさんは初登場から「猿のように」手首で鼻をこするような仕草をされていますが、そういうところからキャラクターを作り上げるのが上手というか、そういうのが大好きな方なんだろうなと」
第4回では信長の家臣・柴田勝家(吉原光夫)に蹴り倒されてもニコニコ。第15回の金ヶ崎の戦いで信長から家康と共にしんがりを任された際には木の実をつぶして血まみれを装い、いかに尽力したのかを信長にアピールして点稼ぎ。信長をはじめとする織田家の面々に屈辱的な扱いを受ける度に笑って場を切り抜けてきた秀吉だが、安土城饗応の宴で明智光秀が失脚した第27回では「(信長が)そろそろおらんくなってくれんかしゃん」とつぶやいたり、信長討ち死の報せを聞いた時に大仰に悲しむもすぐさま行動を起こす切り替えの早さなど、ふとしたときに見せる本音の部分が「恐ろしい」と話題に。ネット上では「目が笑っていない」「サイコパス」といったコメントが並んだ。
「コワいですよね(笑)。ちょっと違うゾーンに居る人というか。例えば、信長の場合は体の中にマグマとかゴージャスさを持っているけど、それを黒で覆い隠している人という設定で表しています。一見スマートなんだけど、内に孤高の理想論みたいなものを秘めている。だから衣装も外は黒だけど、内側には理想や意志をあらわす金や赤が入っていたりする。信長の理想の部分から出てきた欲望がむき出しとなった状態が秀吉です。秀吉を一言で表すなら“欲望”ですね」
“欲望”のキーワードは秀吉の衣装にも反映され、これまで粗末ななりをしていた秀吉が第31回「史上最大の決戦」では金と赤をキーカラーにした絢爛豪華な着物をまとって登場した。
「金と赤は信長の死後の秀吉を描くにあたって前面に出てくるカラーです。第32回『小牧長久手の激闘』では、歯止めが利かない秀吉の暴走の世界になっていくので、様変わりした秀吉や“ムロ劇場”を楽しんでいただけたのではないかと思います」
~以下、第32回のネタバレを含みます~
第32回では、信長の後継者争いを巡って秀吉と家康が激突。秀吉は弟の秀長(佐藤隆太)、池田恒興(徳重聡)、森長可(城田優)らと楽田城で構えた。軍の数は10万。しかし、本多忠勝(山田裕貴)や榊原康政(杉野遥亮)ら家康の優秀な家臣たちの活躍により、形勢逆転。勝利に酔いしれる徳川家臣たちだが、石川数正(松重豊)だけが「秀吉には勝てぬと存じまする」と先を見据える。
常に家康の一歩先を読む人物として描かれる秀吉だが、家康と信長になく秀吉にあったものとは何だったのか。
「何でしょうね……。ストッパー、限度がないところでしょうか。信長がやろうとしたことって、いわゆる旧勢力を一掃して新しい社会構造をつくるみたいなことだったと思うんですけど、例えていえば世界史における資本主義の登場と同じようなインパクトとして、信長をを設定しています。資本主義には誰にも平等でチャンスがある一方で、肥大化して誰も止められないものになっていくような側面」
信長亡きあと、家康に立ちはだかる存在として描かれる秀吉。欲望の果てに彼は何を得るのか? その行く末を見届けたい。(編集部・石井百合子)