『夜きみ』茜のメイクシーンが度々登場するワケ 酒井監督「久間田琳加のベストショットの一つ」
大ヒットドラマ「美しい彼」シリーズの酒井麻衣監督が、汐見夏衛のシリーズ累計発行部数55万部を記録するベストセラー小説を白岩瑠姫(J01)と久間田琳加の主演で映画化した『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』(公開中)。本作で、久間田が演じるのは、学校ではマスクが手放せず本心を隠す優等生の丹羽茜。酒井監督へのインタビューを通し、茜のキャラクターを効果的に伝える映画ならではのアレンジ、工夫を分析する。
本作は、学校ではマスクが手放せず常に周囲の空気を読みながら高校生活を送る茜と、絵を描くことを愛する自由奔放なクラスの人気者・深川青磁(白岩瑠姫)を主人公にしたラブストーリー。「美しい彼」でもドラマ、映画と展開に合わせて変化していく凝りに凝った美術が話題を呼んだが、本作の茜の家、部屋もまた繰り返し観たくなるような仕掛けが見られる。竹林の向こうにある茜宅は父の経営する喫茶店で、店内には暖炉があったり、屋根裏を改造した茜の部屋は本棚が扉になっていたりする。
「茜ちゃんは学級委員長ということもあってクラスでもいろいろな仕事を任されていてストレスが溜まっているというのもあるんですけど、家でも自分の言いたいことが言えずにいるんですね。なおかつ両親が再婚していて、継父とはまだ家族になりきれていないのも気にしている。なので、お父さんの家にお母さんと茜ちゃんが来た、という風に見せた方がそれが伝わるだろうなと思って、映画ではお父さんの働いている喫茶店に二人がやって来た、という風に変えています。そう考えると思春期の女の子が居られるような部屋はないわけで、だったら屋根裏を茜ちゃんの部屋に改造してあげようと。茜ちゃんに部屋を用意してあげたいという家族の想いの表れでもあります」
本作は、白岩演じる青磁、久間田演じる茜と主人公二人の名前にも色が使われているように、“色”の映画でもある。茜に関してはマスクが赤茶色だったり、部屋のステンドガラスがオレンジだったり、ハーブティーが赤だったり、茜の周囲には茜色を彷彿とさせる暖色系の色がちりばめられている。
「茜ちゃんに関しては原作で青磁から『お前は、本当はこういう色だろ。今は違う色のふりをしてるけど、本当はもっと、強くて曇りひとつないまっすぐな色をしてるだろ』っていうセリフもあったりするので、もともと潜在的にそういう色が好きというか、似合う子にしたいと思っていました。ハーブティーはブルーマロウという種類で、もともとわたしがこのハーブが好きというのもあるんですけど、お湯を注ぐと青色からピンク、つまり青磁色から茜色に変わるんです。なので、本作で使いたいなと思っていて。なおかつ、茜ちゃんはストレスで胃腸をやられているのですが、ブルーマロウは胃腸に優しいのでピッタリかなと」
原作にない描写として劇中、茜が部屋でメイクするシーンが度々登場するが、これにはどんな意図があるのか?
「あのシーンは、茜ちゃんが知らず知らずのうちに自分自身も彩っているというのを画で見せたかったんです。青磁が筆でキャンバスを塗るように、茜ちゃんもブラシで自分の顔を塗っている。リップに関しては、マスクをしていて見えないので、ずっとアイメイクしかしていなかったんですけど、青磁に恋をしたことで見えないかもしれないけどリップを塗ってしまう乙女心といいますか。グロスもチューブ型にして、絵の具のように見えたらいいなと。なおかつ、茜ちゃんの表情が明らかに恋をしているっていう。ここは結構粘って撮りましたし、久間田さんのベストショットの一つもあります」
白岩演じる青磁が茜に告げる「お前のこと、大嫌い」というショッキングな一言から幕を開ける本作。ファッション雑誌「non-no」の専属モデルなど、モデル、ファッションアイコンとしても注目を浴びる久間田だが、本作では“過去のある出来事”をきっかけに周囲の目を過剰に気にするようになってしまった等身大の女子高生を好演。マスクをつけていてもヒリヒリとした感情の揺れが伝わる、きめ細やかな演技で魅せる。(編集部・石井百合子)