濱口竜介監督最新作『悪は存在しない』ベネチア上映で8分間のスタンディングオベーション
第80回ベネチア国際映画祭
現地時間4日、映画『ドライブ・マイ・カー』(2021)を手掛けた、濱口竜介監督の最新作『悪は存在しない』が、コンペティション部門に出品されている、第80回ベネチア国際映画祭でワールドプレミア上映され、約8分間のスタンディングオベーションを受けた。
本作は『ドライブ・マイ・カー』の音楽を手がけた音楽家・石橋英子と濱口監督による共同企画。石橋が濱口監督にライブパフォーマンス用の映像制作を依頼し、その過程で濱口監督が脚本を書き下ろしたことから、106分にわたる長編映画が完成した。
各国のジャーナリストが詰めかけた記者会見には、濱口監督と石橋を筆頭に、出演者の大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁、そして高田聡プロデューサーが出席。濱口監督は、本作を作ることになった経緯を聞かれると、普段の自分の作り方でまず劇映画を作り、その後で、石橋からの依頼を受けた音楽用の映像にする2段階を踏む過程で、その元となる映画が今回の『悪は存在しない』になったと説明した。
物語の中心となるのは、東京近郊の村で自然のサイクルに従って生きる父娘。「環境問題を意識したものか?」と質問された濱口監督は「語る立場にはないが」と断った上で、「自分は全ては視覚的に考えるところからはじめ、それに今回の石橋さんとの調和を意識し、その間に自然がある。その自然に人間をおくと必然的に環境問題という言葉が出てくるが、それは大きな問題というより日常的な問題で、その解決には対話が必要だが、しかし今の社会は対話を尊重しておらず、それを映画にした」と回答。一方、子役の西川は、監督やキャストとの仕事を「楽しかった!」と明るく振り返り、会場全体を暖かな雰囲気に包んだ。
その後一同は、撮影の北川喜雄を交えてフォトコールとレッドカーペットに出席。特にキャスト陣は最初こそレッドカーペットの独特な雰囲気に緊張しながらも、次第に観客やスチールからの声に笑顔で応じ、映画祭を楽しんだ様子。プレミア上映の会場は観客で埋めつくされ、上映前に、濱口監督ら、キャスト・スタッフが2階の客席に登場すると大きな声援で沸いた。そして、ラストシーンを迎えて上映が終了すると、会場はそれまでの沈黙を破る拍手であふれ、約8分間のスタンディングオベーション。『悪は存在しない』チームも場内の観客にくまなく何度もあいさつし、興奮の中でワールドプレミアは終了した。
その後の囲み取材で、濱口監督は「イタリアという土地柄か、企画当初では思いもよらないほど非常に暖かく、情熱的に迎えてもらいありがたく思います」と感謝。石橋は「企画時にはベネチアにみんなで来るなんて思いもよらなく、感慨深いです。濱口監督との共同作業の中で自分が作るつもりのなかったものが生まれたりするのは、自分の中で宝物であり本当にありがたい体験をさせていただいたと思っている」と語った。
また、主演の大美賀は、現地の反応について「上映後のみなさんの反応が死ぬ時に思い出しそうなくらい嬉しかったです。」と独特の表現で笑いを誘うと、「濱口さんが大丈夫と言うなら信じようと思い、現場では監督がとにかく俳優部を励まし、勇気づけてくれた明るい現場だった」と、撮影を振り返りしみじみ。西川が「観客の『わー!』という歓声が嬉しくて緊張しなかった」と無邪気に回答する一方で、小坂は「今まで経験したことがない経験をして、言葉にならないです。『ドライブ・マイ・カー』の時はスタッフとして関わっていて、いいなと思っていたんですが、まさか自分がこのように濱口監督の作品に出てベネチアまで来るとは思ってもみませんでした」と感慨深げに語った。第80回ベネチア国際映画祭は現地時間9日まで開催。
また『悪は存在しない』と共通の映像素材から作られた、石橋の音楽ライブ用サイレント映画『GIFT』(ギフト)は、10月にベルギーで開催されるゲント国際映画祭で初披露される予定で、それ以降、石橋によるライブパフォーマンスとともに世界各地で上映が予定されている。
映画『悪は存在しない』は2024年公開予定