森山未來&塚尾桜雅がベネチア映画祭出席 塚本晋也監督『ほかげ』上映「思い伝わった」
第80回ベネチア国際映画祭
現地時間5日、趣里が主演を務める塚本晋也監督の最新作『ほかげ』(11月25日公開)が、オリゾンティ部門に出品されている、第80回ベネチア国際映画祭(~9月9日)で上映され、現地を訪れた出演者の森山未來と塚尾桜雅が、塚本監督と共に、レッドカーペット、公式上映、記者会見、フォトコールに参加した。
『ほかげ』は、終戦直後を舞台に、生き延びた人々が抱える痛みと闇を描いた作品。趣里が、戦争で家族を失い、焼け残った居酒屋で体を売って生きる女性を演じ、森山が片腕が動かない謎の男を、塚尾が物語の狂言回しとなる戦争孤児を演じる。
戦場の極限状況で変貌する人間を描いた『野火』(2014)、太平の世が揺らぎ始めた幕末を舞台に生と暴力の本質に迫った『斬、』(2018)の流れを汲む新作。上映では、本編の終盤、エンドロールに差し掛かるやいなや場内からは惜しみない拍手と歓声が巻き起こり、約8分間のスタンディングオベーションが送られた。
上映後には、観客とのQ&Aの場が設けられ、塚本監督は「まずは、ありがとうございました! grazie!」と感無量の表情。「今回の『ほかげ』は、実際に戦争に行った人だけではなく、戦争のせいで恐ろしい目に遭った一般の人たちの目を通した物語です。僕自身は歳を取ったので召集されることはないでしょうが、もし今後、戦争に行くとなったら若い人たちです。そういったことが起きないようにという願いを込めて制作しました」と思いの丈を伝えた。
初の塚本作品への参加となった森山は「塚本監督の映画はどれも力強い作品だと感銘を受けていたので、今回、作品に参加させていただけるということを光栄に思っています」と感謝。また、初めて海外の映画祭に参加した塚尾は「Mi chiamo OGA.Ho 8 anni. Piacere !(僕の名前は桜雅です。8歳です。はじめまして!)」と、一生懸命覚えたというイタリア語でのあいさつを披露し、会場を沸かせる一幕も。
上映を終え、塚本監督は「実は、『ほかげ』は僕自身がとっても好きな映画にできたんです。また、今回、このような大きなスクリーンで上映できて嬉しかったですし、お客さまが皆、息を詰め、集中して観てくださっていて、観終わった後に、祈りの思いが伝わったという感触を非常に強く感じられました。とても嬉しいです」と喜んだ。
そして「ヨーロッパの映画祭に参加したのは僕自身初めて」という森山は、「ベネチア国際映画祭という場所にこの作品で来られて、本当に光栄です。監督の込めた祈りやエネルギーがこれからどういう風に観客に届いていくのだろうと楽しみでもあります」と語り、塚尾は「自分が出ている映画を多くの方が観てくれていると思うと、すごく嬉しい気持ちでいっぱいです!」と一生懸命に伝えてくれた。
今回で9度目の参加となるなど、ベネチアと縁の深い塚本監督だが、初めて観客とのQ&Aの場に立ち会い、「お客さまが的確で実感のこもった質問をしてくれたので、想像以上に大事なことを伝えられた気がします。今の世の中の不安とか、戦争に近付いてきているということを伝えられたし、皆さんが真剣に聞いてくださったので、とても良い時間になりました」と振り返った。
塚本作品がベネチアに選出されるのは、『斬、』(2018)以来、5年ぶり。オリゾンティ部門では、『六月の蛇』(2002)でコントロコレンテ部門(現・オリゾンティ部門)の審査員特別大賞、『KOTOKO』(2011)で最高賞にあたるオリゾンティ賞を受賞しており、今回も受賞が期待される。また本作は、現地時間7日より開催される、第48回トロント国際映画祭センターピース部門にも正式出品されている。(編集部・入倉功一)