「VIVANT」公安監修が分析!乃木と『イコライザー』マッコールに意外な共通点
元CIA工作員が闇の仕事請負人(通称:イコライザー)として19秒で悪を抹消するさまを描いた映画『イコライザー』シリーズが、第3弾『イコライザー THE FINAL』で最終章を迎える。同作の舞台設定や主人公ロバート・マッコール(デンゼル・ワシントン)について興味を示しているのが、現在大ヒット中のTBSの日曜劇場「VIVANT」(毎週日曜よる9時~)の公安監修を務める勝丸円覚だ。元公安警察の勝丸が、映画の試写直後に独占インタビューに応じ、元公安視点で観た本作の魅力や、マッコールと「VIVANT」の主人公・乃木憂助(堺雅人)の意外な共通点を語った。
【動画】マッコールさん、わずか9秒で悪を抹殺!『イコライザー THE FINAL』予告編
マッコールに匹敵するCIA捜査官「実在する」
1990年代半ばに警視庁に入庁した勝丸は、2000年代初めに公安部に配属。現役時代は、CIA捜査官と何度も会ったことがある。「外国で出会ったCIA捜査官は海兵隊出身で、格闘スキルが世界選手権レベル。小型ナイフは常に所持していました。スパーリングを見せてもらった時は、狂気を感じましたね」とマッコールのような並外れた戦闘能力を持つ捜査官は実在すると断言する。
『イコライザー THE FINAL』の舞台はイタリア。シチリアでのとある事件で生死の境をさまよう大怪我をしたマッコールは、イコライザーとしての自分に限界を感じ、静かに引退を決意する。アマルフィ海岸沿いの美しい田舎町で、自分を受け入れてくれる地元の人々と心を通わせるマッコールだったが、その町にイタリアマフィアの魔の手が迫っていた。
アメリカ合衆国の正義のために悪を葬ってきたマッコールが、イタリアの小さな町で紅茶や読書を楽しみ、平穏な引退生活を過ごす。勝丸は「アメリカに愛国心と正義を感じていたが、引退して今は自分の正義感で活動している。周りに悪い奴がいなければ、恐らくマッコールはそのまま(イタリアで)生活したいんだと思います」と本作でのマッコールを分析する。
現役引退後、セキュリティコンサルタントとして世界各国で安全研修やテロ対策訓練を行っている勝丸は、『イコライザー THE FINAL』の舞台であるシチリアに注目する。「映画にも登場するシチリアマフィアは有名で、マフィアの世界では、シチリアは伝統的に強いと言われています。そこに最強のマッコールが来るわけですから、マッコールとシチリアマフィアを戦わせたのは実に爽快でした」実際、シチリアでは今年1月、イタリアで最重要指名手配を受けていたマフィアのボスが30年間の逃亡生活の末、逮捕されている。
乃木とマッコールの共通点
国家の治安、市民の安全を守るために悪人を裁くマッコール。そんな彼と「共通点が多い」と勝丸が指摘するのが、秘密諜報部隊「別班」に所属する「VIVANT」の主人公・乃木憂助だ。表向きは大手商社に勤務するエリート商社マンだが、その正体は、謎のテロ組織「テント」の真相を探るため国内外で諜報活動を行う別班員だった。
勝丸が共通点として第一に挙げたのは「周囲から見て、その正体がわからない」こと。マッコールも、表向きはしがないホームセンターの店員や、タクシードライバーとして働いており、一目でイコライザーと判断することは困難だ。「乃木はスイッチが入って人格が変わりますが、あのまま生活していたら普通は別班とはわかりません。マッコールも同じで、何事もなければホームセンターの店員さんに見えますよね」
「少し突っ込んだ事例を挙げると、一流のスパイは見かけも良く、動きもしなやかで洗練されています。ところが、“スパイマスター”と呼ばれる本当のスパイは、鈍感な人に見えると言われています。街中で他人と肩がぶつかった時、一流スパイはつい訓練された動きを出してしまいます。一方で、スパイマスターはぶつかっても『アハハ、ごめんなさい』と謝るほど、絶対に身分がわからないようになっています」
マッコールや乃木など特殊な任務をこなすエリートには、“特別なルーティン”があるはずと勝丸は分析する。「特別任務を受ける人は、カフェでナプキンを直したり、物の配置を直したり、すごく神経質なんです。乃木も、ドラマではきちんとしていますよね。そういう人たちが別世界に入っていく時、人を殺めたり危険なミッションを遂行する際は、本人なりの特別なルーティンがあると言われています」
公安警察官にとって“必修科目”な映画6選
日本では、ここ数年でダークヒーロー人気が急上昇している。なぜ人々はダークヒーローに惹かれるのか? 勝丸は、いつの時代にも彼らを求める声が上がっていたと分析する。「江戸時代の鼠小僧もそうだと思うんです。金持ちの蔵に入って金を奪ってきて民に配る。社会的な矛盾や不満を、誰かが正してくれないかという期待が、いつの時代もどの地域にもありました。だから、『イコライザー』や『VIVANT』のようにスカッとする作品が求められる。不満や不平等が大きくなればなるほど、それらが解消するところを見たいという声も大きくなります」
外国の日本大使館でも勤務経験がある勝丸だが、マッコールのような闇の仕事請負人はこの世界に実在するのだろうか。「ヤクザやマフィアの世界では、裏処理する人は存在します。ヒットマンがそうですね。これは日本に限らず、世界中にもいます。CIAやFBIが違法なことを、日本の警察に頼んで処理してもらうことは常識的にありません。マッコールのように自分の判断や正義感で動く人、あるいは住民の望みを叶えるために動く人などは、少なくとも会ったことがありません」
最後に、現役引退後に映画を観るようになった勝丸に、CIAやテロ組織の描かれ方がリアルな作品を尋ねてみると、新人の部下に“必修科目”として勧めていたという、洋邦合わせて6本を挙げた。
「1本目は『アルゴ』(ベン・アフレック監督&主演)です。イランのアメリカ大使館で人質事件が起こり、CIA捜査官が救出するという実話です。2本目はロバート・レッドフォード&ブラッド・ピット共演の『スパイ・ゲーム』。協力者(情報提供者)の運営の仕方がリアルです。3本目は、個人的な趣味ですが『ボーン・アイデンティティー』シリーズ。外国で情報収集する外事警察は、誰も助けがいない状況で、自分の知恵と機転と勇気で切り抜けなければいけません」
「日本の作品ですと、1本は『外事警察 その男に騙されるな』です。麻生幾の小説を映画化した作品で、渡部篤郎さん主演で外事警察のあり方が描かれています。2本目は『アマルフィ 女神の報酬』。映画が公開された2009年で、私はその前後に外交官・黒田康作(織田裕二)に近い仕事をしていました。3本目はかなり旧作ですが、市川雷蔵さんが主演した『陸軍中野学校』(1966)です。陸軍中野学校にいた人たちが監修しているので、すごくリアルです。『VIVANT』にも名前が出てきましたが、手品師も登場します」(取材・文:編集部・倉本拓弥)
映画『イコライザー THE FINAL』は10月6日全国公開