“女性版ジョン・ウィック”で話題のネトフリ韓国映画『バレリーナ』は何が面白い?
韓国フィメールバイオレンスアクションの新たな傑作が誕生した。Netflixで10月6日から配信が始まった映画『バレリーナ』のことだ。Netflixの週間グローバルトップ10(10月9日~10月15日)の映画・非英語部門で第1位を獲得。日本の「今日の映画TOP10」でも上位をキープし続けている。何が面白いのか考えてみたい。(文:大山くまお)
どんな作品?
『キル・ボクスン』(2023)、『パーフェクト・ドライバー/成功確率100%の女』(2022)、『The Witch/魔女』(2018)、『悪女/AKUJO』(2017)など、女性を主人公にしたバイオレンスアクションの作品を連打している韓国映画界が、また新しい傑作を生み出した。それが『バレリーナ』である。
ストーリーはシンプルだ。元要人警護員のオクジュ(チョン・ジョンソ)とバレリーナのミニ(パク・ユリム)は親友だったが、ある日突然ミニが命を断ってしまう。彼女の遺言は「復讐して」。ミニを脅していた相手が変態性癖を持つ男、チョイ(キム・ジフン)だと突き止めたオクジュは、彼とその背後の組織に対して壮絶な復讐を開始する。
格闘術や武器に精通した主人公が、愛する者を失った無念を晴らすため、敵に復しゅうするという物語は、キアヌ・リーブス主演の大ヒット作『ジョン・ウィック』(2014)をはじめ多くの作品に共通する定番のもの。銃を素早く使いこなしながら、大人数の敵を相手にたった一人でアクションを繰り広げるシーンは、まさに『ジョン・ウィック』を研究し尽くしたように見える。
スタイリッシュな映像も本作の大きな特徴だ。シンメトリカルな構図を多用しつつ、こだわり抜かれた美術とカラーグレーディングによって構築された映像世界が次々と展開していく。韓国のラッパーで音楽プロデューサーのGRAY(イ・ソンファ)による、画面とシンクロした繊細かつダイナミックなサウンドトラックも聴き応え十分である。
監督&キャストは?
監督と脚本は、過去からの電話で同じ家に住む2人の女性の運命がつながるタイムスリラー『THE CALL/ザ・コール』(2020)を手がけた新鋭イ・チュンヒョン。主人公・オクジュ役のチョン・ジョンソは、村上春樹の短編小説「納屋を焼く」を原作とした『バーニング 劇場版』(2018)でヒロインに抜てきされた注目の俳優。『THE CALL/ザ・コール』では過去の世界から電話をかけてくる謎の女性役をミステリアスかつエキセントリックに演じて大きな話題を呼んだ。余談だが、イ・チュンヒョン監督とチョン・ジョンソは恋人同士であることを公言している。
ハイパーマッチョな“女性の敵”であるチョイ役は、ロマンティック・コメディー「その恋、断固お断りします」で芸能事務所代表を演じていたキム・ジフン。かつては“週末ドラマのプリンス”と呼ばれていたが、近年は大きくイメージを変貌させている。チョン・ジョンソも出演している「ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え」ではハイテンションなデンバー役を演じていた。主人公の親友ミニ役は『ドライブ・マイ・カー』(2021)のパク・ユリムだ。
物語の向こう側に見えるテーマとは?
本作で鮮明に打ち出されているのは、女性と男性の対立だ。シスターフッドで結びついた主人公側は全員女性であり、女性たちを搾取して踏みにじる敵は全員男である(唯一武器商人の老夫婦の夫だけが主人公の味方につくが、銃の取り扱いによって彼が不能であることが示唆されている)。
主人公と敵対する男たちが女性を人として見ていないことは、女性たちを脅していたデータのラベリングでわかる。そこには「バレリーナ」という属性しか書かれていないからだ。なお、性的暴行や変態行為を撮影した動画で多くの女性を脅し、女性たちを「奴隷」と呼んで管理する手法は、韓国社会を騒然とさせた性犯罪「n番ルーム事件」と同じである。
映画『バービー』(2023)でわかるように、ランボルギーニなどのスポーツカーや馬は男性性の象徴である。敵組織の男が「こっちにはお前のよりデカい銃があるんだぞ」と叫ぶ場面も示唆的だ。一方、海は女性性の象徴である。本作で映し出される海は、あるときは荒れ狂い、あるときは穏やかな顔を見せる。
「現実は複雑だから」というエクスキューズを入れず、「悪いものは悪い」とキッパリ宣言して殲滅(せんめつ)してしまう態度は、クエンティン・タランティーノの『イングロリアス・バスターズ』(2009)にも通じる爽快さがある。優美なタイトルとルックを持ちつつ、内面は怒りに満ちたエモーショナルな『バレリーナ』は、女性にこそ観てもらいたいバイオレンスアクション作品である。