「大奥」仲間由紀恵「不謹慎ながら、ある意味わくわく」 狂気の治済役振り返る
NHKドラマ「大奥」シーズン2(NHK総合・毎週火曜午後10時~10時45分)で、「まるでサイコパス」とSNSで反響を呼んだ仲間由紀恵演じる一橋治済。仲間は「視聴者の皆さんからお叱りを受けるような役だとは思いますけれど。今まで演じたことのない、狂気的な役でした」と撮影を振り返り、オファーを受けた時の心境から撮影を終えた心境までを語った。
3代将軍・家光の時代から幕末・大政奉還にいたるまで、男女が逆転した江戸パラレルワールドを描いたよしながふみの漫画に基づく本シリーズ。仲間演じる治済は、8代将軍・吉宗の三女・宗尹の子で一橋家当主(吉宗の孫)。一見柔らかい雰囲気だが冷淡で非道な権力の亡者。田沼意次(松下奈緒)や松平定信(安達祐実)に気付かれぬよう謀略を巡らし、我が子・家斉(中村蒼)を将軍にしようと密かに画策。家斉が将軍になってからは自身が実権を握り、障害になる者たちをことごとく排除し、孫までも手にかけていくさまが描かれ、SNSでは「怖すぎる」「邪悪すぎる」「完全にホラー」と戦慄の声が上がった。
仲間は、治済役のオファーを受けた時の心境、本作で描かれる治済の印象をこう語る。「幼い子どもを平気で殺めていく役だという情報は聞いていましたが、実際何を思っていて、どんな役なのかという細かいところまでは、オファーをいただいた時点ではわかりませんでした。それでも台本を読み進めるうちに、思っていたより“ファンタジーな人”だなあと思えてきました。そもそも人の命を奪うこと自体がどうなんだというのは勿論ありますが、仕方なく人の命を奪うにしても、普通は理由があると思います。でも彼女が人を殺める時に、理由はなくて。権力を手に入れる上で邪魔な者は排除するというただそれだけで、淡々と人を殺せてしまうし、楽しみすら感じることもある……。狂気的な面を持っていて、世の常識が通じない、とんでもない人だなと思いました」
理解が及ばぬ人物ではあるものの、撮影自体は「わくわく」したとも。「彼女の言動に関しては人として理解できない部分だらけではあるので、理解しようというよりも、どんな楽しみを先においてこの人は取りかかっているのかな……みたいな事を想像しながら演じました。あくまで作り物の世界ですし、ここまで振り切れた人物だと、監督陣もとても楽しそうに演出されるんです。それに、そもそも時代劇というのは、誰も実際には見たことのない世界。ある程度自由に作れるものだと思っています。とんでもなく変わり者で狂気な治済なので、不謹慎ではありますが、ある意味わくわくしながら演じさせてもらいました」
治済はシーズン2の初回・第11回から登場。この時には柔らかな笑みを浮かべ、虫も殺さぬような穏やかな印象だったが、第12回では密かに定信と意次が対立するように画策するなど、徐々に本性を現していった。その変化は仲間が監督と話し合いながら構築していったと言い、仲間は「役の魅せ方は、監督方ともお話をしました。前半は、本性が見えない、裏ではものすごい事をしているけれど、表面的には何を考えているか分からない雰囲気。でも実権を握った途端、タガが外れたように贅沢三昧をし、この力がどこまで及ぶんだろうと楽しんでいるかのような空気もあります。監督との間で、力を握るあたりから治済の本音を少しずつ足していこうというお話もありましたので、それまでは大人しく見えるように意識して演じました」と語る。
また、治済と息子・家斉の関係もいびつで、治済にとって息子は操り人形。第14回で家斉が赤面疱瘡撲滅のため、人痘接種を再開したいと打ち明けた時には「男が政を語るのではないわ! 国中の男に人痘だと? 一体どれだけの手間を金がかかると思っておるのじゃ」と激高し、家斉を震え上がらせた。仲間は、家斉に「とてもかわいそう」と同情しながら、2人の関係に思いを巡らせる。
「“権力を握るのは自分である”という思いが、幼い頃から彼女の中にずっとあって。実権を握っていない時から、どうすれば自分が一番上に立てるのかを考えていましたし、そのためなら息子ですら利用するという……。何とも恐ろしい人です。家斉は息子なので、もちろんある種の愛情もあると思います。ただ、『そうそう、私の言う事をずっと聞いてなさい』というように、従順な子に育ててきていますので、家斉はとてもかわいそうではありますよね」
とりわけ印象に残っているシーンとしては、「力を持ってからの、御台(茂姫/蓮佛美沙子)や定信とのやり取り」を挙げる仲間。「 “自分”をしっかり持っていて、政をまっすぐやっていきたいという熱い思いを持っている人達でしたが、そんな人達ですらも治済の狂気にはかなわないんだ……と。治済はそれくらい頭のおかしい人なんだというのを再認識させられました。治済は、まぁ人の話を聞かない(笑)。自分のことしか考えていないという面を強く持ち続けるのが大変ではありました」とその理由を述べながら、同時に「感情がない」治済役としての苦労も述懐する。
「自分の感情を真っ直ぐストレートに伝えられて、意志も強く、間違っていることは『これはおかしい』と声を上げられるような相手に対して、どう攻めたら崩すことが出来るんだろうというのはよく考えていました。通常は感情と感情のぶつかり合いで芝居が成立していきますが、彼女には感情がない。相手がぶつけてくれる熱い気持ちに対して熱く返すことがないので……。どうよけるかを考えながら演じるのは面白くもあり、難しくもありました」
大いに反響を呼んだ治済を演じ切った心境を、「視聴者の皆さんからお叱りを受けるような役だとは思いますけれど。今まで演じたことのない、狂気的な役でした。子どもに、見られちゃいけない役だなと思いますけれど……私の意思ではなく、脚本と監督の演出通り演じることができたということをきちんと伝えたいなと思います(笑)」と語った。(編集部・石井百合子)