『ゴジラ-1.0』山崎貴、限界に挑んだ大破壊シーンの裏側告白「人間の目線」を意識
ゴジラ70周年の節目に製作された実写シリーズ第30作『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督がインタビューに応じ、壮大なスペクタクルの見どころや舞台裏を明かした。(取材・文:神武団四郎)(以下、一部内容に触れております)
戦争により多くのものを失った日本。復興に向け動きだしたさなかに出現したゴジラ。敷島浩一(神木隆之介)や大石典子(浜辺美波)ら戦禍を生き延びた人々は、新たな恐怖に直面する。『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズや『海賊とよばれた男』『アルキメデスの大戦』など数々の大ヒット作を手がけてきた山崎監督。戦後日本という新たな設定のもと製作された本作で、かつてないスケールのスペクタクルを展開した。
活気を取り戻しはじめた日本に出現したゴジラは、破壊の限りを尽くしていく。大都市破壊はゴジラシリーズに欠かせない見せ場のひとつ。第1作『ゴジラ』から実在する街が緻密なミニチュアセットで再現され、現実と地続きのリアルな描写が観客を戦慄させてきた。それは本作でも踏襲されている。
「まず助監督が拡大コピーした当時の地図を用意して、そこに発泡スチロールで作った主な建物を並べてくれたんです。ここは通りたいよね、ここに来たらこれ壊すよね……とシミュレートしていきました」と山崎監督。メインスタッフとリアルな地図を俯瞰しながら、もっとも映えるゴジラのルートが決定された。ポイントは“街を象徴する顔”だった。「ランドマークは壊したかったので、まずは日劇や朝日新聞社ビル。向かいにあったマツダビルはどうしようかと考えて、オリジナル版で鉄塔から実況中継していたようなアナウンサーを屋上に持ってきました。ここなら日劇を壊すゴジラが正面に見える、ということです。現実の街のレイアウトからの逆算ですね」
VFXチームはこの市街地の破壊シーンに1年間かかりきりになったという。「壊れる建物の3Dモデルは、壊れる時に不自然に見えないよう、“お作法”がたくさんあるんです。ミニチュアセットも同じだと思いますが、物理的な衝撃で壊れたように見えるよう、どこがどう壊れるかを仕込む必要があるので作るのが大変。しかも建物の数が半端じゃないので、VFXディレクターの渋谷(紀世子)から『どうするの、これ?』って(笑)」。そこで社内で助っ人を集めたという。「白組のVFXチームはここ(調布)と三軒茶屋にありそれぞれ別の仕事をしてますが、三茶から『シン・ゴジラ』でビルを破壊したスタッフに来てもらいました」
完成した壮絶なスペクタクルは映画を代表する見せ場になったが、VFXチームの印象は「こんなに短かったっけ?」だったという。「実際はそこそこ、長いシーンですが、モデリングから延々と取り組んだ映像がみるみる消費されていくのを見て衝撃を受けたんです(笑)。結果的にはものすごくパワフルな画ができました」と自信を見せる。
口から吐き出す放射熱線もゴジラに欠かせない要素。「放射熱線はエネルギーを消耗する必殺技と位置づけて、安易に使うのはやめました。ある種の儀式的に描きたかったという思いもあります」
本作でもっとも特徴的な見せ場が、ゴジラと軍艦が対峙する姿。山崎監督にとって特に思い入れの強いシーンだという。「軍艦が怪獣に壊される様をつぶさに描いた映画は、これまでほとんどなかったので。金属の巨大な船が、ゴジラにぐしゃぐしゃにされていくところをずっと見たいと思っていました」。ただし街の破壊と同様に、海の描写はVFXチームにとって大きな負担になった。「すべての水の動きをシミュレーションしないといけないんです。そのため製作にあたって会社のマシンを増強したんですが、複雑なところは1カットで5テラの容量に膨れあがって……ギリギリでした。VFXチームはよくやってくれたと思います」
ゴジラの登場シーン全体を通してこだわったのは、近い位置から人間の目線でゴジラを見ること。「時々は広い画を挟んでいますが、基本的にカメラは人間の目線を意識した高さに置いています。ゴジラを実際に体感してもらう映画にしたかったので、好き放題にカメラの位置を置くことはしませんでした」という山崎監督。映画は余韻のあるラストを迎えるが、“山崎ゴジラ”が今後も続く可能性はあるのだろうか。「もちろん続けることもできると思いますが(笑)。いろいろと解釈ができる終わり方は、すごく映画的で好きなんです。当たったら次も作るというよりも、観ていただいたお客さんの中で次の物語が動きだしてくれたら嬉しいですね」
映画『ゴジラ-1.0』は全国東宝系にて公開中