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『ゴジラ-1.0』過激な“暴走ビジュアル”になる可能性も 王道を目指したデザイン秘話

まさに「怖いゴジラ」となった『ゴジラ-1.0』のゴジラ
まさに「怖いゴジラ」となった『ゴジラ-1.0』のゴジラ - (C)2023 TOHO CO., LTD.

 日本が世界に誇るゴジラを新たな視点で再構築した映画『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督がゴジラをデザインするにあたって影響を受けた作品や意匠に込めた思いを語った。(以下、一部内容に触れています)

【画像】絶望との戦い…「怖いゴジラ」を目指した『ゴジラ-1.0』場面写真

 1954年の『ゴジラ』公開から70年にわたってスクリーンで暴れてきたゴジラ。実写シリーズ30作目となる本作のゴジラは、過去作とはまた異なる凶暴さをにじませたデザインになっている。「怖いゴジラ」を標榜し自らゴジラをデザインした山崎監督は、国内外のゴジラ作品を念頭に、かつてない怪獣王を生み出した。

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 これまで手掛けた監督作でも、自らラフスケッチやデザイン画を描いてきた山崎監督。『ゴジラ-1.0』制作にあたっても「とにかくたくさんイメージやスケッチを描きました」とふり返る。「きれいに整えた絵というよりも、こんなシチュエーションどうかな、あんなシチュエーションありかなとラフなコンテで探っていく感じ。海外の映画祭に参加するなど、長距離移動する時に、空港などで時間が空くことがありますよね。そんな時はワクワクしながらゴジラを描いていたんです。幼稚園の頃のお絵描きのように、思いつくままイメージをふくらませていく感じです」

 今作のゴジラの根底にあるのは、山崎監督の代表作のひとつ『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(2007)の冒頭に登場したゴジラ。荒々しさを強調したそのデザインは、『ゴジラ-1.0』のプロトタイプといってもよい。山崎監督の中で“理想とするゴジラ像”が固まったのはいつ頃だったのだろうか。「はっきりいつかは覚えてませんが、このゴジラすごいなと感じたのは『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(2001)ですね。ああいう怖いゴジラが大好きなのと、もし自分が作るとしたらCGを使うことになるので、人の体型に影響されないゴジラを作るならどんなアプローチがよいか、という思いがベースにあったのは確かです」

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(C)2023 TOHO CO., LTD.

 CGによるゴジラといえばハリウッド版が思い浮かぶが、山崎監督もギャレス・エドワーズ監督の『GODZILLA ゴジラ』(2014)は意識したという。「ハリウッドゴジラは自分としては結構狙っていた世界観ではありました。もしゴジラを作るなら……と自分が考えていたこともやっていたので、日本で作るならもっとこんな感じにしたいとか頼まれもいないのに勝手に構想したり(笑)。いつか『ゴジラ』を撮れる予感もあったので、そのくらいからいつもゴジラが頭の隅にあり、手が空くと何かしらイメージを描いていた時期がありました」とハリウッド版が刺激になったと明かした。

 そんな山崎監督の理想的なゴジラが具現化した作品が、埼玉県にある西武遊園地のライド映像「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」(2021~)だった。この短編で山崎監督は演出、ストーリー、デザインを担当。この“ライドゴジラ”をより凶暴にブラッシュアップしたのが『ゴジラ-1.0』のゴジラで、頭が小ぶりになり背ビレの威圧感がますなどより怖さが引き立てられている。どちらのゴジラも、3DCGアーティストの田口工亮が3D造形を担当した。「田口君という『ゴジラ・ザ・ライド』で3D造形を担当してくれた優秀なデジタル造形師がいるんです。ライドゴジラをどうリファインしてくれるか楽しみにしていたら、予想をはるかに超えるすごいゴジラを作ってくれました。まさに理想のゴジラができたと思っています」

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 山崎監督版のゴジラはがっしりとしたフォルムが特徴的だが、皮膚のディテールも歴代ゴジラとはまた違う複雑な形状になっている。山崎監督は「ゴジラは特徴的な縦筋の模様を持っていますが、そこにプラス要素を入れました」といい、それにより原爆の影響で生まれたゴジラの出自を表現したという。「僕の中でゴジラの誕生は、高い再生能力を持った生き物が核の炎で焼かれ、ものすごい勢いで再生しようとして暴走した結果というイメージ。もとの生き物(海底に棲息していた古代生物)そのままの部分と、暴走した部分を共存させることにしました。元からあった鱗と、暴走による縦の筋のディテール両方を持っています」

 特に初期段階のスケッチでは、両者の格差を強調していたと明かす。「全身のいろんな部分が暴走していて、へんなところから手が生えてたり、損傷した顔が再生しかけて顔半分が牙だらけの絵も描きました。ただし自分の中では王道のゴジラを作りたいという思いがあったし、それ抜きにしても東宝さんがOKしてくれないでしょうから過激な姿はボツにしました(笑)」と山崎監督。クリーチャー映画の傑作『遊星からの物体X』(1982)擬態生物の影響はあるかと聞くと「無意識のうちにあったかも」という答え。「確かに感覚としては近いですね。パッと見はゴジラなんだけど、よく見るといろんなところが暴走してる。我々の世代にとって『遊星からの物体X』は心の奥に刻印されてる作品なので、そういうところが出てしまったのかもしれないですね」

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 ゴジラはもともと、大戸島付近に棲息していた古代生物で、島の人々からは呉爾羅(ごじら)と呼ばれ語りつがれてきた怪物。映画の序盤に登場した、肉食恐竜を思わせる“呉爾羅”のデザインも紆余曲折があった。「実は初期デザインは、実際にいてもおかしくないくらい恐竜そのものだったんです。でも話し合いをする中で、将来ゴジラになるという繋がりを持たせることにしました。最終的なゴジラから、恐竜っぽく逆進化させたらどうなるかという逆算からのデザインです。たとえば背びれもわりと最終的なゴジラに寄せてエッジを柔らかい形状にしたり、体型もゴジラっぽくしました」

 意識したのは『ゴジラVSキングギドラ』などに出てきたゴジラの基になる(架空の)恐竜、ゴジラザウルスの存在だった。「ゴジラザウルスというお手本があったので、それに似すぎてしまわないよう、頭の比率を少し大きくするなどティラノサウルスに振ったデザインにしています。黒っぽくないとゴジラらしさが出ないので、色についても修正を加えていきました」。表皮にもこだわりがあった。「呉爾羅にも再生能力を感じてもらえるよう工夫しています。体にたくさんの傷がありますが、よく見ると再生したように治っているところもあるんです。夜のシーンなので、暗くて少し見えづらいとは思いますが」と山崎監督。なお『ゴジラ-1.0』はIMAX、MX4D、4DXScreen、Dolby Cinema などさまざまなフォーマットで公開されている。それぞれのフォーマットをチェックした山崎監督に暗さに強いフォーマットを聞くと「暗いシーンでも特にディテールがはっきり見えるのは Dolby Cinema だと思います」と答えた。

 体感的ビジュアルに圧倒されるゴジラだが、細部にまで目を凝らしてみるとその身体に刻み込まれたさまざまな意匠が見えてくる。そこから山崎監督はじめスタッフが込めた思いを読み解くのも『ゴジラ-1.0』の楽しみである。(取材・文:神武団四郎)

映画『ゴジラ-1.0』は全国東宝系で公開中

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