CG、手描き、続編、オリジナル…ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオはどこへ向かう?CCOインタビュー
ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの制作部門のトップであるCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)のジェニファー・リーが来日時にインタビューに応じ、100周年を迎えたスタジオの現在地と、今後進んでいく未来について語った。
リーは『シュガー・ラッシュ』の共同脚本家として2011年にディズニー・アニメーションに参加。大ヒット作『アナと雪の女王』(2013)では同スタジオの長編映画を手掛けた初の女性監督となったことでも知られる(クリス・バックと共に監督)。『ズートピア』(2016)のストーリー作りにおいても重要な役割を果たし、2018年からはCCOしてスタジオを率いてきた。
「素晴らしく、そしてとても込み入った5年間でした。『アナと雪の女王2』(2019)を仕上げるところから始まり、パンデミックという新たな障害にも対処しなければなりませんでした。その期間に2本半(『ラーヤと龍の王国』『ミラベルと魔法だらけの家』『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』)の映画を作れたのは素晴らしいことです」とこれまでを振り返ったリー。スタジオそのものにも、この5年間で多くの成長があったのだという。
「かつてなく多様性のある人材が集まっただけでなく、世代的にも今までになく幅広いんです。今、新世代の才能が力を伸ばしているのを目の当たりにしています。それにはとても興奮しています」
そんなスタジオの姿を象徴しているのが、15日に公開を控える『ウィッシュ』だ。「本作の監督の一人であるファウン・ヴィーラスンソーンのディズニーでの最初の仕事は、『アナと雪の女王』のストーリーボードアーティストだったんです。彼女はその時から、ビジョン的にも、リーダーとしても、ストーリーテラー/フィルムメイカーとしても、ものすごい成長を遂げました。だから今、彼女が監督へと上り詰めたのを見るのは、ただ素晴らしいです。スタジオの外から“新しい声”を連れてくることに加えて、このように、スタジオ内でもたくさんの機会を作って才能を育んでいくということを大切にしています」
『ウィッシュ』は、ディズニーの過去と未来の懸け橋のような作品。スタジオの100周年記念作品ということで、リーたちは伝統的なディズニー・ミュージカルとおとぎ話、手描きアニメーションにおける美しい水彩画背景の匠の技をたたえたいと考え、新たな楽曲と新たな才能たちでオリジナルのおとぎ話を作り上げた。CGアニメーションでありながらかつてのディズニーを思わせる水彩画スタイルの背景は、映像がお披露目された時から話題を呼んでいた。
「(CGで水彩画スタイルの背景を実現するのは)とても大変なことでした。最初に着手したことでもあります。(手描き背景を)そのままCGに合わせると、大切なものが失われてしまった感じになるんです。でも、CGそのものには、カメラ、環境、キャラクターの親密さなどにおいて、より没入感があるものができるという利点があります。そこでわたしたちは、この映画で過去と未来の橋渡しに挑むならば、その二つが両立するような方法を見つけたらいいんじゃないか? と考えたのです。そうすれば、どちらの良さも失われることはありません」
「わたしが一番興奮しているのは、アーティストたちの筆遣いから伝わるビジョンが、テクノロジーを通して、この映画のあらゆる面に息づいていることです。この100周年記念作は、そこへわたしたちを到達させるために駆り立てるのに完璧な映画だと感じたんです。わたしたちは短編映画でも、(CGと手描きを融合させるような)異なるテクノロジーに取り組んできました。しかし、このレベルで取り組んだのは初めて。ディズニーの技術者たちはそんな挑戦が大好きなんです。そして、彼らは素晴らしい仕事をしてのけたと思います」
本作ではCGで手書き風の背景を実現する形を採用したが、リーは今後、ディズニーが再び手描きアニメーション映画を制作する可能性は否定していない。全ては監督のビジョン次第なのだという。
「わたしたちが作り上げた現在のスタジオの体制は、400人のクルー全員が手描きのレイヤーに注力していた過去のものとは違います。今も手描きのアーティストたちはいますが、体制として、最新技術に取り組むための基盤が出来上がっているんです。本作に関しては“手描きアニメーションが作れない”ということではなく、スタジオにいる全員のコラボレーションとなるようなものを作りたいと感じていました。手描きアーティストたちとも密接に仕事をし、彼らはこの映画に大きな影響を与えました。本作においてはこれが正しかったと思っています。しかし、スタジオには手描きアニメーションに立ち返りたいと強く望んでいる監督も何人かいて、わたしたちは彼らをサポートすることになるでしょう。わたしの考えでは、それは監督のビジョンに忠実であるべきですから」
CCOとしての5年間で誇りに思っているのは、「今、わたしたちがいる場所」だというリー。「わたしたちは100周年を祝うと決めましたが、そこへどう到達すべきかわかりませんでした。わかっていたのは、クリエイティブに集中するということだけ。手描きとCGのコンビネーションが美しい短編『ワンス・アポン・ア・スタジオ -100年の思い出-』(※字幕版はディズニープラスで配信中。特別吹替版は『ウィッシュ』と同時上映)を作っただけでなく、『ウィッシュ』ではわたしたちの創造性とテクノロジーが一つになり、スタジオとしても全てのアーティストと技術者が一つになりました。これまでで最大のコラボレーションと言えますし、そのことを誇らずにはいられないんです」
一方で後悔していることはあるのだろうか?「時には過去を振り返り、『今知っていることを、あの時知っていたら』と言うことは重要だと思います。実際、『ウィッシュ』にはその通りのことを歌う『真実を掲げ』という歌がありますしね(笑)。ですが、失敗から学べればいいと思うんです。わたしにとって、“後悔”というのは口にしづらい言葉。なぜなら、わたしはそれを“学びの機会”と捉えるからです。もし苦労したことで何かを学んだのなら、それを今後、前に進むために適用することができます。そう考える方がいいと思うんです。過去を振り返って単に『あの時ああしておけばよかった』と言うことはできますが、わたしは、ストーリーテリングはとても複雑で主観的なものであり、全員を満足させることなど決してできないということを尊重しています。わたしたちがいつもやっていることは、何とかしてストーリーにおけるキャラクターの核心に戻ろうとすることであり、そうし続けられるのであれば、その途中の全ての間違いも問題ないと感じられるのです」
今後もディズニー・アニメーション・スタジオはエキサイティングなラインナップを用意しているという。「続編も、素晴らしいオリジナル作品」も予定していると明かしたリーは、続編とオリジナル、それぞれの難しさをこう語る。
「続編は人々が思うよりも難しいものなんです。通常、1作で解決を迎えていて、2作目を始めるためには、真に語りたい物語があることを確実にしなければなりません。そして、今や多くの人々がそれぞれの考えを持っているキャラクターについて──キャラクターと観客の間には、すでに関係性ができていますからね──選択していかなければなりません。『アナと雪の女王2』の制作時は、“ファンの希望”は脇に置いておかなければなりませんでした。キャラクターたちがどこへ進むのか、わたしたち自身の考えにフォーカスしたのです」
「オリジナルはその点では、素晴らしい機会と言えます。全く新しいものを作れる、リスクを冒せる、というのはエキサイティングです。ただ、何を観るか、ずっとたくさんの選択肢がある現代では、オリジナル作品は認知を得るのがちょっと難しくなっていると思うんです。それがオリジナル作品における最大の難しさです。ストーリーテリングはいつだって複雑で、それは続編でもオリジナルでも変わりませんから」
すでに発表されている『アナと雪の女王』シリーズ第3弾の進捗状況については、「開発中です。余計なことを言わないように注意しなくては」と笑ったリー。「でも興奮しています。わたしが思っていた以上に、語るべきストーリーがたくさんあるんです。今作っているものに迷いはなく、世界の皆さんに観ていただけるのが待ちきれません。(前2作に続き)監督を務めるかはわかりませんが、今は製作総指揮としてチームと仕事をし、ストーリーを組み立てるのを手伝っています。『アナと雪の女王』チームのことはよく知っているので、今はただ彼らと働くことを楽しんでいます」。『ズートピア』続編についても「こっちも話せないんですけど」と笑いつつ、「本当に楽しい、エキサイティングな新キャラクターと前作のキャラクターが今まで観たことのない形で出てくることになります。だから楽しいものになりますよ!」とだけ語っていた。ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの次の100年はもう始まっている。(編集部・市川遥)
映画『ウィッシュ』は12月15日より全国公開