アリ・アスター監督「画面を血みどろにしても良かった」とニッコリ 狂気の新作引っ提げ日本のファンと交流
映画『へレディタリー/継承』『ミッドサマー』で知られる鬼才アリ・アスター監督が20日、ヒューマントラスト有楽町で行われた最新作『ボーはおそれている』のQ&A付き試写会に出席。ネタバレを気にせずに行われたティーチインで、日本のファンからの質問に次々と答えた。
【動画】狂ってる…アリ・アスター監督の最新作『ボーはおそれている』予告編
アスター監督が気鋭の映画制作会社「A24」と3度目のタッグを組んだ本作は、怪死した母のもとへ向かおうとする主人公・ボー(ホアキン・フェニックス)の狂気の帰省を描いたオデッセイ・スリラー。アスター監督は、2020年1月に『ミッドサマー』のプロモーションで初来日して以来、およそ3年ぶり2度目の来日を果たした。
179分という長尺の映画上映後、観客の神経を逆なでする悪夢のような“強烈な映画体験”に打ちひしがれた様子の観客たち。 登場したアスター監督は、ほがらかな笑顔で「みんなちゃんとトイレに行きました? 長い映画ですみません。でも気に入ってくれたらうれしいです」と気遣いながら、「全米は今年の4月に公開されて、そこから長い間、各国で宣伝活動をしてきました。日本が最後のプロモーション地点となるわけですが、自分にとってそれは本当に詩的なことだと思っています。きっと日本の皆さんは他の国の人よりもこの映画のことを理解してくれるでしょうからね」とワクワクした様子を見せる。
「日本は世界でも大好きな国」と語るアスター監督は、2度目となる日本滞在を振り返り、「前回の初来日の時は東京に滞在させてもらって。その後、京都にも数日滞在することができたんですが、今回はもう少し長めの滞在が叶いました。まずは京都に行って、その後、(香川県の)直島に行って、その後に富士山にも行きました。1日だけだったので、富士山に登ることはできなかったけど、その後1週間ほど東京に滞在することができた。本当に楽しませてもらってます」と笑ってみせた。
『ボーはおそれている』の製作のきっかけについて質問されたアスター監督は、「作品によってアプローチは違いますけど、今回に関して言うとアンビバレンツ。つまり、ものごとを決められずに優柔不断である様子であったり、不安を描くような作品をつくりたいというところから始まっています」と説明する。
本作を描くにあたり、「今回は不安を抱えた男のコメディーというのが狙いでした」と語るアスター監督は、「最初に浮かんだイメージというのは、何かしらの旅に出なくてはいけない男がいて。本当は行きたくないんだけど、行かなくちゃいけない。そんな男が玄関のドアに鍵を差し込んだ時に、そういえばフロスを忘れた、と思い出して、フロスを取りに戻るわけです。そしてまた玄関に戻るんですけど、鍵は何者かに抜き取られてしまい、そして荷物も盗まれてしまった。さあ、どうしようと。これなら何か不安を抱える男を描くきっかけになるかもしれないと思った」と本作のインスピレーションの源になった冒頭シーンについて語った。
会場には筋金入りのアスター監督ファンが集結し、監督に質問する際には「おかげさまで気が狂いそうです。ありがとうございます」とうれしそうに前置きをしてから語る人が続出。中には「前2作に比べてゴア描写(残虐描写)は控えめでしたね」(※ただし痛みを感じさせるようなエグいシーンは多数あり)というコアなファンの姿もあり、それにはアスター監督も「おっしゃることは分かります。ゴア描写が少なかったということで、ガッカリしましたかね? 本当はもう少し首のない死体とか、画面を血みどろにしても良かったんですけど、今回はボーの視点から描く映画なので、それはできなかった」とニッコリ。
また、観客の理解を軽く飛び越えるような、イマジネーション豊かな悪夢のようなシーンが連続することもあり、「クライマックスの○○は何?」「バスルームの○○は何?」など、自分たちがスクリーンで目撃したものはいったい何だったのか、その思いをファンがアスター監督にぶつけるひと幕も。さらには「誰にも話していない秘密で、日本のファンにだけに教えてもらえることはありますか?」という質問に対して、ボーの少年時代の回想シーンに仕掛けられた“とある秘密”に言及。「このことについては、世界中の取材でも誰も言及してくれなかったので、実はガッカリしているんです。日本の皆さんにはこの秘密をコッソリ教えたので、来年2月に映画が公開される際にはあと2回は繰り返し観て、このシーンがどういう意味なのか考えてもらいたい」と観客に呼びかけた。(取材・文:壬生智裕)
映画『ボーはおそれている』は2024年2月16日全国公開