走るゾンビで広がるジャンル映画の可能性 『劇場版 君と世界が終わる日に FINAL』監督、コロナ禍経て描く「感染する怖さ」
竹内涼真が主演を務める『劇場版 君と世界が終わる日に FINAL』(1月26日全国公開)の菅原伸太郎監督がインタビューに応じ、ドラマSeason1から描いてきたゴーレム(ゾンビ)や、近年主流になってきた“走るゾンビ”の可能性について語った。
2021年に地上波連続ドラマとしてスタートした「君と世界が終わる日に」は、ゴーレムがはびこる世界を舞台に、主人公・間宮響(竹内)や生存者たちの戦いを描いたゾンビサバイバル。劇場版では、最愛の娘・ミライを取り戻すため、響が人類最後の希望の都市とされる「ユートピア」の研究タワーを目指す。
ゴーレムのデザインは、マーティン・フリーマンが主演した異色ホラー映画『カーゴ』(2017)が参考になっていると菅原監督は話す。Season1当初は、予算や時間と闘いながら、リアリティーあるゴーレムを生み出すために試行錯誤を繰り返した。
「それまで人間だった者が、ゴーレムになることが割と大きな要素だったので、そこに集中して予算と時間を投下していきました。最初の方は、1体にどれくらい時間がかかるかわからなかったこともあり、深夜2時から作り初めて、体力任せで制作していました。徐々に(画面に)映らない人たちはメイクを少し薄めにしたり、作り込む人を指定するなど、実務的な経験が多かったです」
ゴーレムは、猛スピードで人間に襲いかかる“走るゾンビ”だ。映画史における走るゾンビは、『ナイトメア・シティ』(1980)や『バタリアン』(1985)からはじまり、その後『28日後…』(2002)、『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)など2000年代のゾンビホラー作品では主流となった。
菅原監督は「走る以前のゾンビは、ジャンル的にはホラーでしたが、走るようになってからは、アクションの敵として自立したなと思います」と走るゾンビの可能性について語る。「ホラー・スプラッターという一つのジャンルだったゾンビが、走ることで戦争と同じように、ジャンルの幅が広がっていきました。また、野生動物のリミッターが外れてしまった恐怖みたいなものも、走ることによって出てきました。より現実的な恐怖の対象に、ゾンビはなっていったと思います」
ゴーレムは、人間が謎の感染症“ゴーレムウイルス”に感染したことで誕生する。Season1が放送された2021年は、新型コロナウイルスのパンデミックによって、人々はウイルスに感染する恐怖と隣り合わせにいた。「ゾンビ映画は、これまでスプラッター表現でしか怖さを出せませんでしたが、新型コロナが蔓延して、感染する怖さも描けるようになりました。その分レーティングも下がってきて、今はPG-12(12歳未満は、保護者の助言・指導が必要)でもゾンビを描くことができます」
ゾンビ映画は、今やホラーのみならず、ラブストーリーやヒューマンドラマ、ミュージカルとジャンルの幅を広げている。ゾンビ映画が作り手や観客から愛され続ける理由について、菅原監督は「もともと人間であった者が、化け物になってしまう。ゾンビ映画のお約束はそれくらいです。どのくらい自我を保てるのか、見た目がどう変化するのか、ゾンビの生態などは、クリエイターに委ねられています。非常に知名度が高く、かつ間口が広い存在。だから、いろいろな人がアレンジしながら、製作できるのかなと思っています」と分析していた。(取材・文:編集部・倉本拓弥)